ストーリーとキャラクターについてのお話の続き。
今回のテキストは藤子不二雄先生の作品、大長編ドラえもんの「のび太の宇宙開拓史」です。
大長編ドラえもんと言えば「のび太の恐竜」が第一作となりますが、「のび太の恐竜」自体はもともとあった連載版ドラえもんの短編を元に、劇場版用に加筆修正したものです。
なので藤子先生が完全に一から描き上げた大長編第一作にして最高傑作がこの作品です。
ある日自分の部屋の床下が異次元トンネルになっている事に気付いたのび太。
そこを通っていくと遠い宇宙の辺境の星、コーヤコーヤ星に繋がっていた。
そこに暮らす少年たちと仲良くなり、異星の美しい自然や心優しい人たちに触れて楽しく過ごすのび太たち。
しかしこの星に眠る貴重な鉱石に目をつけた鉱業会社が住民を立ち退かせようと様々な嫌がらせを始める。
美しい自然や心優しい住人たちを守るため、のび太はヒーローとなって立ち向かう…
映画に詳しい人ならご存知の通り、このお話は藤子先生が愛した西部劇映画「シェーン」をベースにしています。
しかしのび太と言えば運動も勉強もてんでダメな主人公。
それを活躍させるには何かしらの理由が必要です。
普段ならドラえもんの道具でスーパーマンになれば済むことなのですが、それでは理屈も何もあったものではないしカタルシスもありません。
そこで先生は「コーヤコーヤ星の重力が地球より弱く、そこに暮らす人々は筋力が地球人より弱い」という設定を考え、「地球人であるのび太がこの星ではスーパーマンになれる」ようにしたのです。
のび太がドラえもんの力を借りずとも活躍出来る。
こうしてのび太は持ち前の正義感と心の優しさに、超人的な力を持った真のヒーローになったのです。
子供向けという事もありお話としては非常にシンプルな勧善懲悪のストーリーですが、このお話の悪役は鉱石の独占を狙う企業。
地上げ屋さながらの嫌がらせをしたり、のび太たちを排除するために殺し屋を雇ったり、果ては星自体を爆破しようとするなど企業倫理には甚だ問題はありますが、実際のところあくまで企業として利益を上げるための行動であり、純粋な悪とは言えない一面もあります。
もし読者の中に親が鉱業系の仕事や土地開発の仕事をしている子供が居れば、自分の親が悪役にされていると感じてしまうかもしれない。
藤子先生が同じように考えたかはわかりませんが、先生はこのストーリーにもう一つ「悪」を据えています。
コーヤコーヤ星の住人でのび太と友達になった少年の一人。
彼は同じようにのび太と友達になった少女に恋心を抱いていました。
突然現れてヒーローとなり、想いを寄せる少女の憧れの存在となったのび太に彼は強い嫉妬心を抱きます。
その嫉妬心から敵役の企業に異次元トンネルの存在を教えてしまい、物語のクライマックスでのび太は最大のピンチに陥ります。
今作最強の敵である殺し屋ギラーミンもさっさとのび太を狙撃でも何でもして殺してしまえば終わることなのに、殺し屋としての美学を発揮して正々堂々とのび太との対決に望むなど、悪役である企業の面々も本当の極悪人のようには描かれていません。
藤子先生は真の悪とは嫉妬心や友情に対する裏切りであるという子供に向けたメッセージをこの作品に込めたのです。
クライマックスではのび太の隠れた特技である射撃の早撃ちで殺し屋ギラーミンを倒し、星の危機を救うのび太。
普段ダメ人間であるのび太が自分の力で活躍するカタルシス。
普段いじめっ子役のジャイアンも強くて頼れる兄貴分として描かれています。
普段のドラえもんのキャラクター設定を殺すことなく、普段見落とされている側面に光を当ててキャラクターの魅力を十二分に発揮させた完璧な作品です。
ちなみにこの作品は最初の劇場版映画とは別に2009年に「新・のび太の宇宙開拓史」としてリメイクされていますが、あろうことかのび太が裏切られるシークエンスが完全にカットされています。
「のび太の仲間に悪い子はいちゃいけないよね」と言った安直な考えに基づいたとんでもない改悪です。
実際のところ赤ん坊ならいざ知らず、のび太くらいの年齢の子供が純粋で悪心を一切持たないなんて嘘っぱちは大人はおろか当の子供たちでもわかるし、何より作品から学ぶものが一切なくなってしまいます。
まさに上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想!
俺が範馬勇次郎ならスタッフ全員血祭りに上げてるところでしたよ…
ところでこの作品の「のび太が異世界でスーパーマンになる」というアイデアは藤子先生自身の過去作「みきおとミキオ」から来ています。
こちらは現代人であるみきおがタイムトンネルを通って未来の世界へ行き、そこで自分そっくりの少年ミキオと出会って入れ替わり生活を楽しむというお話です。
未来世界では科学文明が発達して大変なことや面倒な事は全部機械がやってくれる代償として未来人は筋力も弱く、計算も全てコンピュータ頼りのため掛け算の九九すら出来ないという設定になっています。
そこで現代人のみきおはずば抜けた体力と頭脳を持つスーパーマンとなるカタルシスの一方、未来人のミキオが未来では失われた現代の自然に感動するくだりがあるなど、科学文明の発達で失われるものもあるという示唆に富んだ名作です。
中にはネット通販(のようなもの)が発達した未来で、お金を払わずに欲しいものが手に入ると勘違いしたみきおが高価な商品を買いまくるという現在を予見したような話もあり、先生の慧眼には頭が下がります。
しかし単行本が未掲載の話を残したまま出版が途絶えた挙句に絶版。その後最終回を含む未掲載分の原稿が紛失されてしまったりと永らく幻の作品となっていましたが、藤子不二雄大全集の中の一巻として完全版が発行されています。
再び絶版になる前に急げ!Kindle版もあるよ!
お話なんてありきたりで構わないんですよ。
その中でキャラクターをどう動かすか、生かすも殺すもそれに尽きるんですよ。
クロスストーリーでヴィンガやディラが意外な一面を見せたり、ルヴレのストーリーでガルスが動いてカディ爺やロギオンが一肌脱いだりするシーンが作れる運営さんならそれはわかってるはず。
これからもキャラストのみんなをもっと魅力的にしてあげてください^ ^
〜完〜
と思ったけど、4周年イベントで物議を醸しているパクリ疑惑。
それについてもちょっと考えを述べたいのであとちょっとだけ続くのじゃよ。
コメント
1
ナポリ
ID: v8ikkh8x6a4s
アイコンの人がギラーミンですね!
この発言は削除されました(2021/11/05 15:13) 2
3
タンゴマ
ID: n9tkjvq6hd3s
>> 1
いや似てるけどw
4
ひお
ID: uirqftc365g4
ストーリーとキャラクター 三部作 一気読みしました!
基本的にゲームも映画も 何も考えずに楽しんでましたが なるほど~と思いました!
5
タンゴマ
ID: n9tkjvq6hd3s
>> 4
作り手側からしても仕掛けとかそういうのに気付いてもらうよりも「よくわからないけど面白い」と思ってもらうために知恵を絞ってるので何も考えずに楽しむのが正解です!
俺みたいに素直に作品を見られなくなってしまったらもう手遅れです!