タンゴマの旅日誌

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ストーリーとキャラクター その2「出し惜しみをしてはいけない」


前回に引き続きハロウィンイベントのお話です。

今回のハロウィンのキャラクター、トリック。
出し抜けに現れてハロウィンを荒らし回り、よくわからないうちに倒されて終わりました。

トリックに何があったのか恨みつらみも結局なんだったのか最後までわからずじまいでしたが、俺がストーリーすっ飛ばしてたのでしょうか。


前回書いたカメレオンの例に限らず、謎に包まれたキャラクターというものは余程上手く扱わないと大事故に繋がる地雷です。

例えば「仮面ライダーウィザード」は主人公が謎に包まれていて、何故仮面ライダーになれるのか、何のために闘っているのかがなかなか明かされないままお話が進んでいきます。

もちろんお話が進むにつれてその謎は明らかになっていくのですが、視聴者にしてみれば「よくわからない奴がよくわからないけど強くてよくわからない敵と戦ってる」状況が続き、急速に興味を失わせる結果となって大爆死に繋がりました。


ウィザードよりずっと前の「仮面ライダーアギト」も同様に主人公が謎に包まれた設定でしたが、主人公とは別に警察が開発したバトルスーツ「仮面ライダーG3」を纏って戦う警察官、氷川くんが物語の最初から登場します。
この氷川くんはとにかく真面目で不器用で、雑魚くらいなら倒せますが怪人にはめちゃくちゃ苦戦する程度の強さに設定されています。
「よくわからないけど強い」主人公とは別に、視聴者が感情移入できるもう1人の主人公を用意する事で視聴者を惹きつける事に成功したのです。
このへんは脚本家の力の差が如実に出ていますね。

案の定氷川くんは主人公以上に人気が出て、役を演じた要潤は今でも活躍しています。主役の賀集利樹はどこに行ったのか…


主人公が記憶を失っていたり謎に包まれていたりする設定は、最初にあれこれ説明する手間が省けたり設定を出し惜しみ出来るという点で作り手側としては非常に都合が良いのですが、視聴者にとってはたいへんなストレスがかかります。

例えば運動部で、いつ終わるのかわからないまま練習を続けされられるとか地獄以外の何物でもないですよね。
またマラソンみたいにゴールだけ設定されていても、自分が今何キロ地点に居るのか、あとどれだけ走ればゴール出来るのかがわからないとしたらそれもまた地獄です。

ユーザーを惹きつけておくためにはコースを細分化してゴールを近くに設定しこまめに達成感を与えるか、ゴールが遠い場合には過程自体を楽しませる工夫が必要なのです。


この手の記憶喪失系のお話は、その数に比して成功した試しは非常に少ないです。
映画では「SAW」や「CUBE」などがそれに当たりますが、どちらも過程は面白いもののストーリーやオチには納得いくものではなかったと思います。
成功例としてパッと思いつくのは映画では「メメント」くらいです。

宮部みゆき氏の過去作にも「レベル7」という作品がありますが、これもまた記憶喪失の主人公が出てきます。
もちろん氏の筆力で面白く読める作品ではありましたが、その謎の種明かしには「えぇ…」と落胆した覚えがあります。

現代最強の作家である宮部みゆき氏ですら…ですよ。

「設定を出し惜しみして謎を引っ張れば視聴者がついてくる」というのは作り手側の都合の良い幻想で、謎だけでは物語は動きません。

推理モノで言えば「真犯人がわからない」だけでは物語は動かず、それによって主人公が濡れ衣を着せられたり仲間同士が疑心暗鬼になって殺し合いを始めたりして初めて物語が動くのです。

とは言ってもトリックに何があったのか全部説明すれば良いわけではないですけどね。
一から十まで全部説明するような余韻も余白もないお話ほどダサいものは無いし何より野暮というモノです。
仮面と車椅子というアイテムだけで推し量ってくれということ自体はアリなのですが、それならそれでもっと会話や行動でキャラクターを掘り下げないといかんと思います。

今回で言えばパットンがいい立ち位置に居たので、パットンを主軸にしてストーリーを組めばもっと面白くなったんじゃないかな。


ところでこれまで挙げたようなキャラクターを掘り下げるやり方とは全く別のアプローチもあります。

20世紀最大級の大ヒット映画「タイタニック」がそれに当たります。

この映画の主人公ローズは親の決めた許嫁と結婚する事が決まっていながら、船で乗り合わせた青年ジャックと恋に落ちます。

ローズはこれまでぼんやりと流されて生きてきたこれといった取り柄もない女性で、演じたケイトウィンスレットもハリウッド女優としては美人の部類にはギリギリ入らないくらいの女優です。

そのローズと恋に落ちるジャックも、地位もお金もないが夢だけはあるという男性です。

これはキャラクターの個性というものを徹底的に排除して、観る人皆が共感できる、いわばアトラクションとして映画を楽しませるための計算された設定なのです。

もっともこの手法はタイタニックのような圧倒的なスケールの映画だからこそ出来る手法であり、普通にそんなキャラでお話を作ってもよっぽどお話がよく出来ていないと普通につまらないと思うので、やはりキャラクターの作り込みが1番の近道ですね^ ^

キャラクターとストーリーについてのお話も次回で最終回。藤子不二雄先生は偉大だったというお話です。


タンゴマ

コメント

1

イアルのブロガー

ナポリ

ID: v8ikkh8x6a4s

なるほど。
車椅子に乗りくまの仮面をかぶった世界に対し強い恨みすら抱くメンタル少年
「仮面ライダートリック」
この設定は東映さんがぱくってくる可能性すら秘めた秀逸な新時代の設定だったのですね!!

レベル7まで行ったら戻れない。
なるほど。
キャラストの☆7実装には慎重な姿勢をあんな昔からほのめかしていたなんて!!
さすが宮部みゆき。
そしてさすがタンゴマさん。
すべてをキャラストに結び付けるネタの仕込みがすご過ぎます!!!

2

圧倒的支持率

タンゴマ

ID: n9tkjvq6hd3s

>> 1
ナポリ先生の領域展開「牽強付会」発動!

ちょっと獄門櫃取ってきますε=┌(; ̄◇ ̄)┘