タリスの旅日誌

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一張羅と乙女ゴコロ


記録者:メルロ

 ただいまは、みなさん休息時間として、各々レクリエーションなどを楽しんでいるようですね。
 キャラバンはエルフ領のハワース大森林の只中に停泊中です。小さい子たちは、ビーストがいるので大人同伴で外に出ています。お散歩の時間です。キャラバンの近くにいるのは、マルマとアリアロさんでしょうか。楽しそうな声が聞こえてきます。
「アリアロー! だっこしてー」
「いいですよ。高い高いをしてあげましょうか。ーーそらっ」
「わーい! あはははっ、たのしーぃ♪」
 マルマやパルヤン、モーリーなど、小さい子たちと一緒の時は、アリアロさんはとても幸せそうです。
 故郷のお子さんを思い出すのでしょうか。
 子どもたちと遊んであげたあとは、ふと表情が寂しさに翳るので、きっとそうなのでしょう。私は逆に、兄上のことを思い出してしまいます。その度に、〝シケたツラをするな!〟とエルヴィにドヤされるのですが……。えへへ。
 とても苛烈な女性ではありますが、なんだかんだ言って優しい人ですよ。

「こらこら、ちゃんと手は洗ったのか、マルマ?」
 グァラルさんがやってきました。
「えー?」
「えー、じゃねぇんだよ。あーあ、アリアロの一張羅が泥で台無しじゃねぇかよぉ」
「あ、ごめんなさぁい。そーいえば、アリアロ、おようふくがあたらしくなってるー」
「四つ星になったんだってな。おめっとさん」
「ありがとうございます。ーー服はまた、洗えばいいですよ」
 グァラルさんの顔が曇りました。
「いやぁ……こいつ、さっきまで泥遊びしよってな、ここら辺の土は乾くとパリパリになるが、粘度があってなかなか落ちねーんだわ。俺の太鼓まで汚してくれちまってよ」
 あ、これは……私の出番のようです。
「あの、染み抜きなら私が……」
 できるだけ急いでキャラバンから出ていくと、アリアロさんが丁寧に迎えてくれました。
「これはこれは、メルロさん。恐れ入ります」
「ロディさんに頼まれて、どんな汚れでも落ちる洗剤を開発中でして」
「ほーう。俺の太鼓も綺麗にしてくれや。でもよ、どんな汚れもってこたぁ、素材も傷めちまわねぇか? 強力そうだが」
 私は首を横に振りました。アリアロさんは何も言わず、興味深そうに話を聞いてくれています。
「その土地ごとに採取できる素材を使っていますので、生地を傷めず、汚れを浮かして落とすことができます」
「さすがはメルロさん、研究熱心ですね」
「あなたに褒められると照れますね。私はただ、観察し続けているだけですよ」
「おぅ、カメさんよ。テレでそのでっけぇ甲羅に潜り込む前に、汚れを落としてくれ。……おーっと、おめぇも手伝うんだよ! このイタズラっ子が」
 そーっと逃げようとしていたマルマは、グァラルさんに首根っこを掴まれて、ぺろっと小さな舌を出していました。お茶目さんですね。
 アリアロさんには着替えをして頂き、私は洗濯の準備に取り掛かりました。
「わたし、みつぼしのときのおようふくがすきだなー」
 以前の衣装で現れたアリアロさんを見て、マルマが感想を言いました。
「確かに……。綺麗なブルーですもんね。あなたの銀色の皮膚とも色合いの相性が良いので、素敵だなと思っていました」
「ありがとうございます。実は私も、こちらの衣装のほうが着やすいとは思っていたのですが」
「ああ、でも靴がね、窮屈そうでした……」
「そうですね。それは同感です。四つ星の脚絆仕様のほうが、旅には向いています。ほぼ裸足ですがね」
「我々リザードマンには、そのほうが過ごしやすいですよね」
「へぇ、そんなもんかい。まあ、俺らオークも似たようなもんだが」
 そんなおしゃべりをしているうちに、洗濯と太鼓のお手入れが完了しました。
「メルロは器用だなあ。のんびりしてるくせに、行動が早いよなあ」
 グァラルさんが感心しています。
「効率が良いのでしょう。少ない工程でできるからこそ、マルチタスクが可能なのですよ」
「そんなに褒めないでください。甲羅に隠れたくなります」
「事実ですから」
「う……」
 アリアロさんにキッパリ言われると、何も言い返せなくなってしまいます。
「ほら、マルマ。干すの手伝え。ーー待て待て待て! 手を洗え、手を!」
「あははー! グァラルおじちゃんにおこられちゃったー」
「こういう時はなあ、お兄ちゃんっていうんだぞ。俺ァまだ〝おじちゃん〟と言われる歳じゃねぇつもりなんだがな」
「メルロのほうが、〝おにいちゃん〟ぽい!」
「えぇ…? そうですか?」
「……おい、メルロ。まさかお前さんのほうが年上ってこたぁないよな?」
「あ、グァラルさんのほうが四つ年上ですね」
「四つ違いか。よく覚えてんな」
「私、パルヤンからは〝おじさん〟と言われたことがあります……」
 アリアロさんが土偶のように目を細めて言いました。
「父親っていうイメージだけで言ってんじゃねえか?」
「子どもは時に残酷です」
「あー、それはわかる」
「あははっ。おじちゃんたちがへこんでるー」
 項垂れる男二人に向かって、マルマは純朴な笑顔でそう言い放ちました。
「マルマさん、いつも体を張って守ってくれているお兄さんたちに対して、失礼ですよ?」
「ん?」
「おじさんと言われると、男の人は気落ちしてしまうものです」
「きおちってなぁに?」
「ガックリしてしまうことですよ。マルマさんも、ショックになるようなことを言われたら、嫌でしょう?」
「うん、いやー」
「あんまりひどいことを言っていると、お兄さんたちは遊んでくれなくなってしまいますよ? それはつまらないでしょう?」
「うん。つまんないし、さびしーかな」
(アリアロ。メルロのやつ、何気にキワドイこと言ってんぞ。大丈夫か?)
(メルロさんなら、うまくまとめてくれますよ)
 コソコソと囁き合う声が聞こえました。私は耳が良いもので……。まあ、解釈によってはそう聞こえてしまうのも仕方ないかもしれません。
「誰に対してもそうですが、相手にとって、気分が良くなることを言ってあげましょうね」
「わかったー! あ、じゃあさ……」
 ボソボソと何やら内緒話をされました。
「あ、その場合は……ええ、いいと思いますよ。うん」
「わかった、ありがとー!」
 マルマがキャラバンのほうへ駆けていくと、男二人に詰め寄られました。
「なんだ、なんて言ってた!?」
「私も非常に気になりますね」
「あ……このあと、すぐわかりますよ」
 グァラルさんとアリアロさんが顔を見合わせました。

 三人で後片付けをしてキャラバンに戻ると、サリバンさんのご機嫌な声が聞こえてきました。
「そうかそうか。エライな。いい心がけだ。すぐに作ってあげよう」
「わーい! ありがとー♪」
 マルマは早速、サリバンさんに掛け合ったようですね。頼んだあとは、モーリーのところにでも遊びに行ったようです。
「やあ、きみたち。マルマは本当にいい子だね。ーーふふふ。〝おじちゃん〟か。私はまだまだ捨てたものではないな。うん。ふっふっふ」
 言いながら我々の横を通り過ぎ、キャラバンから出て行こうとしたので、アリアロさんが声をかけました。
「……サリバン様、どちらへ?」
「ガラス細工のための砂を、ちょっと探してくるよ。小さな姫様に、お洒落なものを作ってあげると約束したのでね」
 そう言って、サリバンさんは鼻歌まじりに出かけていきました。
「すんげーごキゲンだな」
 目を丸くしているグァラルさんに、私は種明かしをしました。
「マルマさんが言ったのは、『サリバンのばあいは、〝おじいちゃん〟より、〝おじちゃん〟のほうがいいよね?』ということだったんです。これは推測の域を出ませんが、ロイスまたはドラクが、サリバンさんの歳では〝おにーちゃん〟と呼ぶには媚びすぎだろう、というアドバイスをしたのではないかと……。だから私は、その場合は〝おじちゃん〟のほうが喜ばれるのではないか、という回答をしたのです」
「なるほど……!」
 アリアロさんが、丸い瞳がこぼれそうなほど、大きく目を見開きました。
「末恐ろしいガキだ。おめーさんの〝英才教育〟が功を奏したな。将来、男どもを手のひらの上で転がすような女になるぜ、あいつ」
「あの子はとても賢い子です。あの素直さは侮れません」
 その時、アリアロさんが賞賛の目を向けてきたので、照れ隠しでつい視線を逸らしてしまいました。

 翌日、夕食の時間になる少し前に、食堂にいきました。
 すると、グァラルさんとアリアロさんが同じテーブルについていたので、お冷を持って、私も混ぜてもらうことにしました。
 どうやら、昨日マルマがサリバンさんに頼んだというガラス細工のことが気になっていたようです。
「一体どんなものを頼んだんだろうなあ? あれほど上機嫌なサリバンは見たことがねぇぜ」
「きっと、職人魂をくすぐるものだったのでしょう」
 珍しく、アリアロさんも興味津々です。
 しばらくして、サリバンさんがマルマと共に食堂にやってきました。
「アリアロ、グァラル、ふたりのおにーちゃんたちにプレゼントだよ〜」
 もふもふの小さな手に握られていたのは、カトラリー置きでした。アリアロさんのは羽ペンを模ったもの、グァラルさんのは太鼓とバチを組み合わせて作られた素敵なデザインでした。
「あのね、メルロにしかられて、はんせいしたの。おにーちゃんたちにひどいこといっちゃったから、これはね、おわびのしるし。だいじにつかってくれると、うれしいな!」
「なんと……!」
「こりゃあ……たまげたぜ」
 私は嬉しくなりました。やはりこの子は、とても頭のいい子です。この素直さは、大切にしてあげなければと、改めて思いました。
「ごめんね、アリアロ。ーーごめんね、グァラル。ゆるしてね」
「ありがとうございます、マルマさん」
「ありがとうな」
 小さなゲッシーさんが一人ずつ丁寧にハグしている姿を見るのは、癒されますねぇ。
 マルマは私の膝の上によじ登ると、真っ黒いつぶらな瞳で見つめてきました。それからにっこり笑って、「メルロ、ありがとー。だぁいすき!」
 ぎゅーっと抱きしめてくれているつもりなのでしょうけど、私のお腹が大きすぎて、実際はしがみついているというのが正解なくらい、手が届いていません。
 それがまた可愛いのなんの……。
「マルマさん、素敵なプレゼントをありがとうございます」
 私は彼女の頭を撫でてあげました。
「えへへー」
 サリバンさんに黙礼すると、彼はにこやかに頷いてくれました。やがて夕食の時間となり、美味しい食事と共に、サリバンさんも、マルマも一緒にテーブルを囲んで、楽しい夕食のひと時を過ごすことができました。
 小さくても、乙女心は複雑なのです。
 グァラルさん、我々はすでに、彼女の手のひらの上で転がされていますよ。

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[タリスのひとこと]

ようやくアリアロが★4に進化しました。
おめでとう〜♪
★5の衣装が楽しみですが、★3の衣装、結構好きでした。
アリアロとマルマのクロスストーリーを見て、マルマの可愛さに悶えているうちに、こんなお話が浮かんできました。
ゲッシーたちはリザードマンが苦手だそうですね。
「別に取って食いはしませんよ。今はまだ、空腹ではないのでね」
アリアロの↑このセリフ、気になります…。
空腹になったら食べるんかい、みたいなね。

幼いせいなのか、育った環境が特殊なのか、彼女自身が元々個性的なのかわかりませんが、マルマは怯えることなくリザードマンと接しているので、彼女はそういう先入観はないんだなあという感想を持ちました。
小さいうちから出来る子ですよ。

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(9/24追記)
年齢の確認をしていなかった…ので、イアル年鑑を見てみました。
サリバンは47歳ということになりますがホントですか??
もうちょっと歳いってるかと思っていました…。
それにしてはボグスにジジイと言われすぎでは?💦
アリアロさん25歳。グァラル22歳。メルロ18歳ですよ。若いっ。
20代でおじちゃんと言われるのはちょっとね。

ギザロ99歳(←まあわかる)
ロギオン74歳(←そのくらいだよね)
フィロメナ17歳(←え!?)
スラヴェイア15歳(←えぇ!?)

…みんなもっと年上に見える…けど。
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タリス

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