再び入ったゴルダンは先程とは雰囲気が違っていた。
マップが解放されるだけでこうも違うのかと感心するほどだった。

先程とは打って変わって、 残り時間3分を残し私は最奥にたどり着いた。

「…いる」
端的に言う。たどり着いた最奥にはヒーローがいた、 パダノアだった。私は噂話通りに人がいた事に高揚していた。
しかし、 ふと気づく。
「俺と同じように噂を検証しに来た人なんじゃ…」
高揚感がサーと音を立てて引いて行くのを感じた。
だがしかし、 まだ可能性はゼロでは無い。
「こんにちわ！！いつも、 こんな所まで狩りに来ていらっしゃるんですか？」
ゴルダンという制限時間のある空間でチャットを送るという愚行に出てみた。
返事は無かった。
まぁ、 当然と言えば当然である。もしも、 このパダノアが運営にしても只のユーザーである私に反応するわけも無いし、 私と同じ只のユーザーであったら少しでもチケットを無駄にしない為にストーンを狩るのに必死だろう。

「ギルチャで話のネタにはなるだろ」
そんなポジティブな事を考えていると、 画面が固まっていた。
正しくは操作が出来なくなっていた。
画面のストーンは動いているので、 あくまでフリーズしているわけでは無かった。
「通信エラーかな？ったくクソ運営が！」と悪態をつきながら気づいた。
スマホの画面が汚い。
汚れのせいで操作が効かないと考え、 私は一度パワーボタンを押し真っ暗になった画面にアルコールを吹きかけた。
しかし、 何度拭いても落ちない小さな汚れがある。多めにアルコールを吹きかけてもみたし強く擦ってみても汚れは落ちなかった。
汚れ自体は小さい。私の指の二周り程小さい汚れだったので諦める事にした。

諦めた所で再びキャラストを開くとタスクキルが成功していたのか、 まだゴルダン内に戻る事が出来た。
「お！ラッキーじゃん！」と残った時間でストーンを狩ろうとすると、 アプリが落ちてしまった。
イライラしつつアプリを再び開くものの入っては落ち、 入っては落ちる。
多重ログイン〜のメッセージの度に、 
オープニングメニューから『終了する』を選ぶ。
繰り返しているうちに、 先程の小さな汚れにもイライラしてきた。汚れの場所が丁度『終了する』の辺りなのもイライラを強めた。

もしかしたら傷なのでは？と思い、 目を細めて良く見てみると、 それは傷では無く指紋だった。
自分の指よりも小さな指紋の汚れがある事に、 違和感と寒気を感じずにはいられなかった。何より、 その汚れはいくら拭いても落ちないのであるから。
薄気味悪さとイライラから私は暫くの間キャラストを閉じて昼寝をする事にした。

数時間のフテ寝から起き、 キャラストを起動する。テレビでは夕方のニュースが流れていた。
「××容疑者は、 乳児の〇〇ちゃんをキャリーケースに閉じ込めスマホを弄っていたと供述しているようです」
寝起きに不愉快なニュースを聞き
「子供よりソシャゲかよ、 バカバカしい！！」とイライラしていたが、 
数秒のうちにイライラはゾクゾクに変わってしまった。

開いたキャラストはゴルダン前にワープさせられていた。
スマホの汚れもアルコールが汚れに浸透したのかすっかり落ちている。
噂の確認をする前と何ら変わらない状態だったが、 私は二度とラッピのゴルダンには潜らないと決めたのだった。