キャラバンに同行して良かった、と。
僕ほど多く思う者もいないでしょう。
と、いいますのも、僕は劇作家でしてね。
日々を徒然に過ごしているだけで、脚本のネタが向こうからやってくるのですから、ええ。
そうして筆を踊らせる度、
己の幸運を噛み締めている次第です。
………ああ、そうそう。
つい最近も、面白いことがありましたね。
<特有の熱気、遠くに聞くは戦場の鼓、鬨の声。
緑深く、水は澄み、強かなる生命が色濃く香る…
____そこはオーク領のとある村。
通りすがるキャラバンを呼び止めるは、
かの地を暴れ回るという怪物の報せ。
1人の男が妙な胸騒ぎを覚える中、
勇猛な冒険者らはすぐに駆け付けた。
そして現れたるは怪物、
…もとい、同胞すら喰らうオークの女。
目をひくのは長き赤髪、褐色の肌。
果実を思わせる肢体は際どく、毒々しく、
熱帯の陽射しのもとに晒されていた。>
…これだけですと、貞淑なご婦人方等々には
顰蹙を買いそうですね…
お気を悪くされたなら失礼。
ただ、今暫しお付き合いください。
確かに子供の目に見せられたものではないが、
彼女の本質はそこにはありませんから。
人の本質は必ずしも見目に宿るものではない。
……そうでしょう?
<___さて。
彼女は、先程悪寒を覚えたあの男を
随分と慕っていたようで、その…
物理的に食べて欲しいらしいのです。
実は男の方も人喰いの一族でありましたが、
その女だけは食べたくない、
と言ってうんざりしておりました。
両人のやり取りに臆する冒険者を他所に、彼女は名乗ります。
ここでは伏せますが、”純潔”を意味する名。
彼女はそれを、男につけてもらったものだと、
そう言いました。
…さて。
御存知かと思いますが、名付けることとは、
名前とは、とても重要なものです。
親は子に、幸あれと、こうあれと、願いを込めて名を与える。
____であれば?
純潔の名を彼女に与えた男は、
何を思ったのでしょう?何を願うのでしょう?
ただ解るのは、
純潔を冠する女が、男に身を差し出したこと。
そして純潔を名付けた男は、女を食べたくないこと……>
おおっと、失礼。
語りすぎてしまいましたね。
劇作家の悪癖…職業病といいますか。
作家というのは、話のタネを前にすると、
つい、劇的な妄想を膨らますモノでして。
(諸々を差し引いても目に余る、それも結構。
ただ、あのような…可能性を秘めた題材を、
少々教育に悪いからと切り捨てることは、
少なくとも僕には、できない。)
____そう、これはただの妄言に過ぎません。
…どうぞ、御容赦を。

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