#2の続きです
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キャラバンストーリーズ外伝
英雄手記 炎の化身 #3
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ロロミュが足を取られバランスを崩す
魔獣はこのわずかな隙も見逃さなかった
「ロロミュ!!」
「ロミちゃん!!」
再度放たれる針の雨
ミンミは必死にロロミュに放たれた針を防ぐために箒を振るう
だめだ、間に合わない!!
「きゃあぁぁ!!」
ロロミュの悲鳴
とうとう魔獣の攻撃がロロミュの足を捉えた
直撃自体は免れ足がちぎれ飛ぶことは無かったが、ロロミュの機動力を削るには十二分のダメージであった
倒れこむロロミュに容赦のない針の嵐が降り注ぐ
「炎よ!!我らを守り給え!!」
ミンミはロロミュの前に立ち火の魔法で何とか針を逸らし、打ち消す
その隙にアメリアは素早くロロミュ元に駆け寄り素早く応急処置を施していく……止血!
「ごめん、しくじったわ……」
「ロミちゃん立てる?」
「な、何とかね……」
足を引き摺りながら逃げるロロミュ
アメリアの肩を借りなければ移動することもままならない
「このっ!このっ!!」
ミンミは一心不乱に炎の攻撃
ミンミの心には激情が支配しつつあった
ロロミュを傷つけたウニ魔獣に向けるは不倶戴天の気持ち
非常に危険な状態だ
精彩を欠けば隙が出来るし、炎が暴走すればパンどころかアメリアやロロミュも黒焦げにしてしまうだろう
しかし今のミンミはギリギリのところで戦えていた
「ミンミちゃん!危ない!」
「はぁっ!!」
迫り来る魔獣の攻撃を紙一重で躱し、更にはすれ違いざまに至近距離で直接コアへ炎を当てる
極限の精神状況の中、ミンミの精神は研ぎ澄まされていた
決して戦闘狂という訳ではなく、義侠心でもない
それは友を傷つけられたミンミの怒り!
箒から放たれた炎は弧を描き魔獣に降り注ぐ
狙って放つより弾幕を張ることでコアに当たる確率は高くなる
当然ミンミ自体の負担も大きくなるが、今は全力を出して敵を撃退しつつ退却すること
「ミンミちゃん、こっち!」
敵を炎魔法で圧倒するミンミ
然しもの魔獣も火炎弾を防ぐことで手一杯になる
この隙にアメリアはロロミュに肩を貸しつつミンミを誘導する
魔獣は効いているそぶりを見せないが、着実にダメージは蓄積しているはずだ
コアが焼け焦げ、所々削れているのがその証左
しかし攻撃を緩めれば再び魔獣は針攻撃を再開するだろう
一刻の猶予も許されぬ
しかし今までの疲れが祟ったのか、僅かにミンミの足がもつれた
僅かながら、それは致命的な隙である
「う、うわぁ!?」
針のなぎ払い攻撃を受けてミンミは吹き飛ばされた
「ミンミ!!」
「ミンミちゃん!!」
ミンミはこのまま戦闘不能か!?
いや、ミンミは無事だが……箒の柄が大破、完全に折れている!
そして無事と言えども吹き飛ばされた衝撃はミンミに負担をかける
打撲で背中に痛みが走る
「ぐ……うぅっ……」
戦局は誰から見ても絶望的だ
痛みと苦しみでミンミは一瞬意識を手放そうとする
いや……自分は……
自分は何のために今まで苦労して魔法を学んできたのだ?
こんな時お姉ちゃんならどうする?
そんなの決まっている、大切な人を護るためだ!
こんな所でやられてたまるもんか!!
「ミンミちゃん……!」
「だ、大丈夫……!」
ミンミは重い体を起こしアメリアとロロミュの前に庇うようにして立つ
そして折れている箒を構えた
箒はミンミの武器である
しかしあくまで自身の魔力とイメージが肝要だ
箒が壊れたとて戦える!
「炎よ!」
時間が鈍化した
アドレナリンが身体中を駆け巡り……
最中、炎の精霊の輪郭を朧げに見た
〝炎を広めよ〟
魔獣の攻撃が再び始まる
しかし今のミンミには針の動きが見えている
右から飛んでくる針と正面からの針
ミンミは素早く杖を振り火炎弾を針に当てる!
立て続けに火球を3連撃、魔獣の本体についている……コアにめがけて放つ!
先刻とは違う洗練された動き!
けたたましい破砕音が響き魔獣が少し怯む!
しかしコアの一部を炎で削り取ったものの、致命傷には至らない
よもや、覚醒したミンミですら魔獣を倒すことは不可能なのか!?
いや、そもそも魔獣を倒せるとはミンミも思っていない
そして目の前がフラッシュしたかのように意識を失いかける
ミンミの体力が既に限界を超えているのだ
それでもミンミは魔獣へと炎を放つ
少しでも二人を遠くへ逃がすため……
あわよくばコアをいくつかと刺し違える腹積もりだ
「お願い!もう二人は逃げて!」
「……ミンミ!?何言ってるのよ!」
「そうですよ!一緒にキャラバンへ帰りましょう!!」
魔獣はまた針を飛ばす体制に移行しつつある
もう時間はほとんど残されていない!
全ての針先を三人に向ける魔獣
「もう……私は戦えなくなるから……今なら時間は稼げるから!お願い!」
再び箒を構えて魔獣へと台頭する
疲労とダメージの蓄積により人事不省になりかけているミンミ
あと1発……あと1発が最後の攻撃になる
不意にミンミの身体に触感
アメリアがミンミを抱きしめていた
アメリアは嗚咽している
「ダメだよ……ミンミちゃんを置いてなんか行けないよ……」
抱きしめる力が強くなる
雨に濡れたローブ越しからでもアメリアの温もりが伝わってくる
「そうよ、何言ってんのよ……ミンミが居なくなったら、もう三人で歌えなくなるじゃない!そんなの嫌よ!」
ロロミュも足を引き摺りながらミンミの元に寄る
「私もミンミちゃんを置いて何処かへなんか行かないから……!」
「ここまで一緒に来たんだもの、運命共同体ってやつよ!」
「アメリア……ロロミュ……!!」
ミンミは理解した
私は一人ではないということ
共に笑い時には泣いたりした親友たちがついていること
今までずっと一人で問題を抱えていたミンミにとって、大事なものを見失いかけていたのだ
「……アメリア、お願い……時間を稼いで!」
憂は消えた
三人でこの場を乗り切ると決意したミンミは大技のために暗誦を始める
一撃、あと一撃で決めるしかない
イメージするは先に垣間見た炎の精霊
精霊と通じてありったけの魔力で業火を魔獣へ降り注ぐしかない
アメリアはミンミの言葉の意味を悟り、軽く頷いた後素早く前に出て魔獣へとパンを投げる、もちろん陽動だ
ミンミの邪魔はさせない
ロロミュもミンミの側に座りながら体を支える
そして普段とは違う静かなる歌を唄う……
ミンミの精神は研ぎ澄まされていった
魔獣の無慈悲な針の掃射が始まる
地面を穿ちアメリアを穴あきチーズにするべく襲いかかる
アメリアは最小限の動きで針を躱し、そして何処からか取り出した名状し難い形のパンらしいものを……投げた!
墨だ!メンダコの墨を詰めたパンが炸裂し、まるで煙幕のようになり魔獣の視界を奪う!
「炎よ……炎熱の使者よ……!!今こそ我に従え!!」
ミンミはありったけの力を込めて暗誦する
間に合った、今まで培った修行の成果を見せる時!
「出でよ炎!パノフィートの名の下に全てを焼き尽くせ!!」
巨大火球が空から飛来し、勢いを増して魔獣の体を貫いた
いや、それだけでは終わらない!
何発も、何発も……それはがむしゃらに放つミンミの怒りと決意!
魔獣は痛みがあるのか無いのかは知らぬが、身じろぎしてダメージに耐えているようであった
だが、ミンミの破滅的な炎の雨に焼かれ大爆発を起こす!
「はぁ……はぁ……」
視界が歪む
もうミンミは魔力を使い果たしてしまい、膝をつく
破壊的火炎弾が辺りを焼き払い雨を、水を蒸発させる
土煙が舞い上がり魔法の威力を物語る
これで……これで魔獣が倒せていなければ……
「ぐ、うぅ……」
「う、嘘……」
しかし現実は無情であった
根比べは魔獣の勝利に終わった
魔獣は損傷が激しいものの、まだ倒す所まで至っていなかった
土煙が風に流され黒き塊が姿を現したのだ
ミンミは箒を取り落す……もう力が入らない
でも自分がやらなければ……アメリアは……ロロミュは……
「ミンミ!!」
倒れるミンミを受け止めるロロミュ
人事不省のミンミはとうとう力尽きてしまう
薄れゆく意識の中、ミンミは今までのことを思い出していた
姉のこと、キャラバンのこと、そしてアメリアとロロミュのこと……
走馬灯のように思い出が蘇る、ある種のトランス状態に陥ったミンミは自然と涙を零す
「二人とも……ごめ……ん……」
泥のように溶けた意識の中で謝る
もし、もし輪廻転成があるとしたら……またアメリアとロロミュに逢いたい……
二人の笑顔が脳裏を過ぎった
ドゴォッ!
突如魔獣のコア一つが爆発とともに捥ぎ取られる
バババババ……!
続けざまに重々しい発砲音、魔獣の動きが止まる
「ミンミちゃん、ロミちゃん!」
アメリアは二人に覆いかぶさるように庇い破片から守る
厚着なアメリアには幸いにダメージなし!
再び砲撃音
砲弾は的確に魔獣のコアに直撃する
爆ぜる炸薬弾と魔獣
走り寄るは銀色に輝くボディ
キャラバン一行が一連の騒音に気がつき修理を中断し駆けつけてくれたのだ
キャラバンにはエルフやゲッシー(半獣のような種族か)のような耳の良い冒険家たちもいる
魔獣の出す轟音とミンミの声を聞きつけやってきたのだ
キャラバンからまろび出る冒険家たち
「おい大丈夫か!?」
「こっちだ!早く陣形展開しろ!!」
怒号が飛び交い次々と交戦状態となる冒険者
「大丈夫か!?怪我はないか!?」
「ミンミちゃんとロミちゃんが……」
素早く戦闘不能のミンミとロロミュを担ぎ上げるキャラバンの乗組員
アメリアも肩を貸す
なんとか……なんとか守りきれた
あとはキャラバンの頼もしい仲間たちが何とかしてくれる
ミンミは安堵からかロロミュの腕の中で既に意識を手放していた
…………
……
「ミンミ!気がついたの!?ミンミ!!」
気がつくとミンミはベッドの上に寝かされていた
隣のベッドにはロロミュも横たわりながらミンミの様子を窺っていた
「良かった……本当に良かった……!」
アメリアがミンミの上半身に抱きつく
顔はずっと泣いていたのか、目が腫れ涙で濡れてと酷い有様だ
「あ……お、おはよ、アメリア」
ミンミは何が起きているのか全く分かっていない様子で、いつもの眠たそうな顔でアメリアを迎え入れる
そして徐々に思い出すあの悪夢のような光景
ミンミは魔力を使いきり丸々一週間寝ていたらしい
その証拠に体が鉛の様に重い、まるで四肢が自分のものではないような感覚
「本当に心配したんだからね……馬鹿……」
「う、うん……二人ともごめんね……?」
ロロミュも珍しく嗚咽している
ミンミも二人から貰い泣きしてしまう
「ミンミちゃん……ありがとう、ありがとう……!」
ミンミはその後二人からあの時どうなったのかを聞いた
魔獣はあの後すぐ討伐された
というのもコアは部位の殆どが崩壊寸前までにダメージを負っていたのだ
手負いの魔獣でなければ最悪の場合キャラバンが再起不能になるまで破壊されていた可能性だってあるのだ
……手負い?全てミンミ達三人がやり遂げたのだ
三人の手でで瀕死まで魔獣を追い込むなど微塵にも思わないだろう
ミンミ自身が思っていたように
そしてこの事実はキャラバンの皆は知らない
今回の出来事でミンミはまた一つ……
いや、いくつもの大事なことを学べただろう
やめてしまおうかと思った魔法使いとしての力
少なくとも一度なりは忌み嫌った魔法の力にミンミは感謝した
授かった力は単に敵を打ち負かす炎ではなく、大切な友人やキャラバンの仲間、そして将来の大切な人を護っていくための力なのだと
少なくともアメリアやロロミュの笑顔を見て魔法使いで良かったと、パノフィートの称号を持つ魔法使いで良かったんだと姉に誇れる
「……あれ?ええっ!?」
「ど、どうしたの?」
ミンミは驚愕する
何故ならアメリアの後方に姉の姿が見えたのだ
突然驚くミンミにアメリアは狐につままれたような顔をする
「お姉ちゃん…?」
「えっ?……さっき背後に見えた気が……?」
ミンミの錯覚だったのか、姉の姿は見えなくなっていた
代わりに立てかけてあるは粗末な修理が施された姉の箒
たった今見た筈の光景が朧げである
でも姉は……笑っていたような気がした
「ミンミも早く良くなって私のバックダンサーをやってよね!」
「うふふ、パン焼きも手伝ってくださいね!ミンミちゃんオリジナルパンも作りましょう!」
「うぇ!?うえぇぇぇ!?」
偉大なる魔法使い
彼女の名前はミンミ・パノフィート・ゴッサブル
彼女が受け継いだ名のパノフィートとは炎の化身という意味である
キャラバンストーリーズ外伝
英雄手記 炎の化身 完
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