リンデンの旅日誌

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トゲビンタの威力


: 旅日誌 : 本日の当番【アリアロ】

リザードマンの新たな仲間を迎え入れ、ブンワーイ砂漠へ。
キャラバンに同乗している仲間たちというのは、本当に個性的な方々ばかりで…かく言う私も他人のことをとやかく言えませんが、個性によるトラブルが頻発します。
今回はフィロメナさんが研究熱心なあまりに、リンデンさんに悲鳴を上げさせる事態を引き起こしました。

「今回は私、どうしてもフィールドに出たいんです」
キャラバンの談話室に向かう途中、フィロメナさんがリンデンさんを熱心に説き伏せていたのが耳に入りました。
「無茶はしないでね。研究となると周りが見えなくなるんだから。うーん…どうしようかな」
「お願いします! 初めてのビーストは危険がつきものですが、できるだけ注意しますから!」
「(没頭すると危ないんだけどなあ)……わかった。編成に組み込むから。行ってきて」
「ありがとうございます!」
ヒューゴにて、サボテンのタネを集めてくれないかとの要請を受けた後のことです。
植物好きなフィロメナさんらしいな、とその時は軽く考えていたのですが、1日経ったあとで私の判断が甘かったことを思い知らされました。

私は武器調達のためヒューゴに残り、同胞たちとしばし歓談しつつ、情報集めをしておりました。
新たな研究対象を見つけて、フィロメナさんはさぞかしご満悦であろう、と思いながらキャラバンと合流したのですが…。
日誌を書こうとペンを手にした時、リンデンさんの悲鳴が響き渡りました。

「な、なにごとですか」
ビースト倉庫の方から悲鳴が聞こえたので向かってみると、異様な光景が広がっておりました。
「フィロメナ! 無茶するなって言ったでしょう!」
サボテンビーストが15体、ビースト倉庫を占領しており、他のビーストたちが怯えて端に寄ってしまっているという状態に。
さすがにトゲのあるサボテンがこれだけいれば、近づきたくないのも当然のこと。
リンデンさんのお説教を喰らいながらも、フィロメナさんは彼らをかばうように立ちはだかっておりました。
「ご、ごめんなさい。できるだけ早めに里帰りさせますから」
「そうじゃないの、あなたの身体を心配してるの」
テイマーのカールさんがリーダーだったために、すごい勢いで仲間になるサボテンが増えたようです。
鉢植えではなく、自立して歩くサボテンですから、普通より危険な存在であることには変わりありません。
それよりも、私もリンデンさんと同じく、血の滲む包帯姿の彼女の怪我の具合が心配でした。
「まあまあ、そんなに怒らないで。今は怪我人なんだからさあ」
キャナルさんが懸命になだめるその横で、全身至る所に包帯を巻かれたフィロメナさんは、痛々しいお姿でしたがオークの戦士のように雄々しい気迫を放っており、私はなにも言えないまま様子を伺うことに。
「(手をかけると可愛くなるのはよくわかるけどさ)……わかったわかった。しっかり管理してあげてね」
「はいっ」
サボテンビーストの得意技である〝トゲビンタ〟を食らってしまったようですね。
ポルカさんが写真を撮っていたようなので拝見させて頂きましたが……確かに近づきすぎです。
トロフィムさんも同様ですが、“追究する者”というのは危険を顧みない傾向にあるようでいささか問題ではありますが、それこそ体当たりで渡り合い、命との絆を築いていくのだろうかと柄にもないことを考えてしまいました。
仲間になったサボテンたちは、フィロメナさんには特に心を開いているようです。
「………」
「アリアロさん、何を考えていらっしゃるの?」
「あ、ユウリさん」
私としたことが、誰かの気配を見過ごすなど初めてのことです。
「なんでもありません。ふと、思い出していただけです。ユウリさんこそ、どうなさったのですか」
「冷たいお水が必要なら、と思って」
「気の利く方ですね。フィロメナさんと、サボテンたちには特に必要でしょう。行って差し上げなさい」
「はい」
「………」
ユウリさんからの水を受け取り、サボテンたちにかけてあげるフィロメナさんは傷だらけでしたが、その表情は幸せそのもの。
命との絆。それは不思議なものですね。
「愛だね、愛」
いつのまにか私の近くで、キャナルさんが彼らの様子を眺めながら呟きました。
「その言葉には強く共感しますよ、キャナルさん」
「愛以外ないっしょ。キケンな植物を可愛がれるなんて」
フィロメナさんの研究者魂を目の当たりにした一件でした。
★6に進化したら、あのトゲはどれだけ立派なものになるのだろうかと戦慄しつつ、成長が楽しみでもあります。

ーーー§ 後日談 § ーーーーーーーーーー
リン「サボテンを編成に組み込んでみたけど。スゴイね、あの子」
キャナ「歩くのおっそいくせに〝トゲビンタ〟ちょー速いよね! 見てて恐ろしくなったよ」
リン「フィロメナもあの威力を体験したわけだよねぇ」
キャナ「それでニコニコしていられるって、あの人もスゴイと思うわぁ」
リン&キャナ「……愛情だね〜」
ヴィン「………いくら金を積まれても、俺にゃあできねぇ」
キャナ「やってくれとは言ってないよ」
リン「オッサン、いきなり割り込んでこないでね」
ヴィン「オッサンオッサンうるせぇわ。凄い根性だなって感心してただけじゃねぇか」

……我がキャラバンは、今日も和やかな雰囲気で砂漠を進みます。


リンデン

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