アドリアス「ん？　……ハハッ、そんなに凹んでるように見えたか。参ったな」 

スラヴェイア「お気になさることはありません。こうして同じキャラバンに乗ったのも神のお導き、お悩み事があるようでしたらどうぞこの私にお聞かせください」 

・ 

・ 

・ 

「ありがとうな。気持ちだけ頂いておくさ」 

「どうかご遠慮なく。……先のローモンド湖で冒険者が放流した外来種の討伐作戦で、思うところがあったのではないですか？　マクマミアというヒューマンの国家の中でのご自身に、重ね合わせて見るところがあったとか。……貴方はその意志とお力で国に尽くし、きちんと受け入れられているのですから、遠慮も心配も無用ですよ」 

「……よく見てやがるなぁ」 

「私などは歴としたエルフでありながら、布教や説教に際してエルフの同胞に罵られたり石を投げられたりすることも少なくなかったですし！」 

「お前も苦労してんだな」 

 

「別に今更、そんなこと気にしたって始まらないさ。なんか心痛む告白を聞いたお返しに白状するがな。……赤牙騎士団の軍資金が不足してるんだ」 

「……は？」 

「ローモンド湖で、冒険者たちに大盤振る舞いしすぎたんだよ。あの連中もここぞとばかりにピラルクを狩りまくっただろ？　泥だらけになってさ。お前さんも含めて」 

「わ、私は、ただ皆様のお役に立てるならばと！」 

「そんなわけで、らしくもない顔してたわけさ。俺も剣を振る以外に何もできやしねぇし、確かに誰かに相談してみるのも手かなぁ」 

「私が相談に乗っているじゃないですか！　……清貧は神の御心に叶います。倹約術ならお任せください！」 

「倹約……。あのな、戦費抜きにしたって、軍の維持費だけでもお前さんの想像を３桁ほど上回る額だと思うぜ。将兵の装備の調達・開発費、訓練費、給与に恩給にってな。人数もいるし飯代一つだって相当な支出さ」 

「食費ですか？　粗食の調理に関してはちょっと自信がありますよ。教会の炊き出しでは、寄付金や畑での収穫物ではとても足りず、野草や山菜、食べられるものは何でも使ってきましたから！」 

 

「お前、本当に苦労してんだな……。しかし飯代をケチるわけにはいかねぇのさ。食い扶持に困った野郎が、とにもかくにも腹いっぱい食えるってんで志願して軍に入るってのはありがちな話だからな。飯の質を落としたら暴動が起きるぜ」 

「費用を削ったとしても、質が落ちるとは限りませんよ。食材ならローモンド湖で大量に手に入ったではありませんか」 

「アレか。川魚は下処理が面倒だから、半分くらい畑に鋤き込んじまったけど、あるっちゃあるな。旨く料理できるもんかね？　不満が出ないならいいが」 

「責任の一端は我々にもありますし、私も烹炊所のお手伝いをいたします。もしよろしければ、皆様のメンタルケアのために告解室を設置してはいかがでしょう？　私でもお役に立てると思いますが」 

「気持ちはありがたいけど、軍人にそれはどうなんだろうな……。ま、試しにやってみても構わないんじゃねぇか。ただし、アルオス教の布教はやめろよ」 

「……。そうですね、今回はアドリアスさんのお立場もあるでしょうし、控えておきます。ではまずジャオキキさんに調理の内容を相談しに行きましょう！」 

・ 

・ 

・ 

「どうしてこうなった……」 

「あ、アドリアスさん、見てください！　皆様がこんなにたくさんお花を送ってくださって！　せっかくなので食堂に飾らせていただきました！」 

「ロロミュの奴が嫉妬するぜ。確かに（ウザさと胡散臭さを抜きにすれば）いい女？かもしれんが」
「聞こえているのですけれど。ちなみにロロミュさんは喜んでいますよ？　ご実家が好景気で」
「あー、そういやあいつの家は花屋だったか。お前さん、いかつい軍人相手でも物怖じしないからなぁ……日頃、ガレガと正面対決してるんだから当然か」 

「いかがでしょう、食費の予算は大幅に縮小でき、皆様からの不満も出ず、今回は大成功ではないでしょうか？」 

「まぁ確かに足しにはなったぜ、ありがとうよ。ただ、連中をこのまま腑抜けにさせとくわけにもいかねぇんだが……あ、そうだ。お前さんに布教を解禁すればいいのか」 

「えっ！？　よろしいんですか？」 

「おう。たぶんそれで解決するだろ。……しかし今回は何とかなったが、仮にも一国の予算を圧迫するなんざ、キャラバン乗りたちはいったい何に金を使ってんだろうな」 

「はぁ。食費はさほどでもないですが、強化、修練、進化、装備の調達、外装の管理……。以前お聞きした軍の維持費と変わりませんね」 

「軍と違って量より質か」 

「あ、それとあれです！　ビーストの里帰り費用！」 

「おい！　ローモンド湖の外来種の件って、要するにマッチポンプじゃねぇのか！？」