アイリーン「お断りだね。私の銃は他人に教えられるようなものじゃない」
ポワトト「まぁまぁ、そう邪険にせず話だけでも聞いてください。コーヒー飴をあげますから」
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「……。そもそも、いきなり銃を教えてくれだなんて、どういう風の吹き回し? あまりにも依頼が来ないからって、自分で事件を起こそうってこと?」
「探偵に依頼が来ないのは世の中が平和な証拠ですよ。あえてそれに逆らうつもりはありませんとも」
「さりげなく主語をすり替えたね。じゃあ何、護身のため?」
「おおむねその通り。謎はなくとも事件は絶えない物騒な世の中ですからね。悲しいかな、僕の明晰な頭脳も暴漢の凶刃には無力ですし」
「さっき平和な証拠がどうとか言ってなかった? しかし護身に銃は過剰でしょう。これは人を殺すための道具。地道にその弛んだお腹を鍛えなよ」
「弛んでなどいませんよ、失敬な。こう見えてもこのポワトト、通信教育でバリツという護身術を習っておりましてね。今日とて日課の前回り受け身100回、きちんとこなしてきていますから!」
「キャラバンの中で毎日コロコロ転がっているのは受け身だったのか。埃が取れるのでポルカが喜んでいるけど。どうせなら各部屋を回ってやっていったらどう?」
「雑巾ですか僕は。……いや、銃にこだわる訳というのはですね、ここらで一つハードボイルドな路線を攻めてみようかと考えたわけでして」
「……は?」
「形ばかりの同盟に隠れて各国でうごめく陰謀、世界各地に現れる魔獣、新たな脅威と噂のエニグマ……。前途に暗雲立ち込めるこのイアルでは、タフでなければ生きられない。しかし優しくなければ生きている資格がない。そんなハードボイルドさこそが今、必要とされている、そうは思いませんか?」
「何を言っているんだかさっぱりわからないよ」
「気の抜けたビールと冷えたピザを朝食に。仕事しながらバーボンをちびりちびり、一日の終わりにはギムレットやマティーニを傾ける」
「アル中じゃないか」
「感情や状況に流されることなく淡々と仕事をこなし、事件が終わった後にはこう言うのです。『あっしには関わりのねぇことでござんす』」
「何もかも間違っている気がする。ポワトト、この間ラスベルの安楽椅子に座らせてもらってご満悦じゃなかったかい? 『これからは安楽椅子探偵の時代ですね!!』とか言って」
「はっはっはっ。いやぁ、あれも悪くはなかったのですがね。座ったままでは僕のトレードマークであるルーペとステッキが全く使えないことに気づいたのですよ。というわけで、どうでしょう。死地に身を晒すハードボイルド探偵として、銃はいわば必携アイテム。私に取り扱いを教えてはいただけませんか? なんならもう一個コーヒー飴を上げますから」
「……。ポワトト。こんな親切は一回限り。止しておくことだ」
「んん。目が据わっていますね……」
「日の当たる世界に生きているのに、わざわざアウトローの世界に足を突っ込むことはないだろう。私が銃を握っているのはいわば宿縁、真似すべきものではないし、できるものでもない」
「いや、えーと、あの。探偵というのも世界の裏面を覗く仕事ですし、僕とてもはやそれなりに場数を踏んでもいますし……」
「……言い方を変えようか。ポワトト、他人に銃口を向けることが君にできるか? 眉間、胸、腹、喉。好きなところに照準を合わせて引き金を引くことが本当に君にできるのか?」
「あー、その……」
「悪いことは言わない。イエ島で使ってた水鉄砲を貸してあげるから、それで満足しておきなよ」
「……くっ」
「?」
「くーっ、痺れますね!! これが本当のハードボイルドなんですね!!」
「君ね……」
「いや、失礼。わかりました。銃は諦めます。ハードボイルドさというのは小道具によるものではなく、生き様によるものだということを悟りましたから!」
「……いいけどね」
「早速ですが、Ms.アイリーン、貴女の仕事を手伝わせてはいただけませんか? その生き様からハードボイルドさを学び取りたいのです! コーヒー飴もどうぞ!」
「……。動機はともかく、ちょうどいい。賞金のかかっている山賊団を今から片付けに行くんだ。ついてくるなら止めないよ」
「いいでしょう。僕が助手としてついていく以上、事件はもう解決したも同然です!」
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「いやはや、乱暴な連中でしたねぇ。びっくりしました」
「……驚かされたのはこっちだよ。いきなり地面を転がりだしたと思ったら、連中を片端から投げ転ばして」
「いやあ、通信教育の成果が出ましたねぇ」
「正直、普段からその技を戦闘に使った方がいいように思うけど」
「御冗談を。僕の主たる武器はこの頭脳! そして輝く正義と燃え上がる勇気です! 力に頼るのは最後の手段ですから」
「ハードボイルドさとか欠片も感じられない台詞よね」
「はぁっ!? なんということでしょう! ……今後もたまにでいいので、お仕事について行ってよろしいですか? お邪魔はしません、コーヒー飴も差し上げます」
「勝手にしなよ……こんなときはこう言うんだっけ? 『私には関わりのないことさ』」
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