黒花の旅日誌

公開

WORLD TRIP 3

ヴァルメルの街を一通り回り、僕は広場にある噴水の階段に腰をおろした。

ヴァルメルの街は、昔訪れた時と変わっていなかった。相変わらず石畳が鳴らす靴の音は楽しく、昔の記憶がよみがえる。

僕は持っている鉄の剣と木の盾を眺めてため息をついた。
鉄の剣は少し刃こぼれしているし、木の盾には丸い穴が開いてしまっている。オオカミの攻撃を受けた時にできてしまった穴だ。

ヴァルメルまで辿り着くまでに、装備はだいぶ傷んでしまった。

あそこに、行ってみようか……
僕は、腰に下げた布袋を握りしめた。

腰を上げ、広場を抜け、路地を進む。
目当ての店は路地の突き当たりにあった。
店構えは古びた骨董屋のようだった。
看板にはこう書いてある。

『ガチ屋』

ガチ屋については、いい噂も、悪い噂も聞いた。ガラクタしか手に入らないとか、とんでもない掘り出し物が手に入ったとか。

腰に下げた布袋をもう一度握りしめる。
ヴァルメルへの道中で出会った人々。その人々から受けた依頼。ビースト退治や薬草探し。その報酬として受け取った幻魔石。
幻魔石は貴重なものだ。こんなことに使ってしまっていいのだろうか。笑顔で幻魔石をくれた人々の顔が浮かぶ。

ガチ屋では、買うものを選ぶことができない。店に置いてある箱を選び、幻魔石を払う。その後で箱を開ける。中身が気に入らないからといって、返却することはできない。

武器や防具が入っているとも限らない。運よく武器が出たとしても、もし弓や魔道具だったら?自分に扱えないものだったら、どんなにいいものでも意味がない。

僕は大きく息をついた。
もし自分に扱えないものが出たら、装備商人に売ってゴールドにしてしまおう。まとまったゴールドが手に入れば、それなりの装備が買えるだろう。
そう思うと、少し気が楽になった。

店の扉を開けて、ガチ屋に入った。
店の中には、所せましと箱が置いてあった。色々な箱がある。大きな箱、小さな箱。新しい箱、焼け焦げた箱。

店の奥では、所在なさげに店主が煙草を吸っていた。

カウンターの前に行くと、店主はつまらなそうに手を差し出した。

「300」

僕が答えられずにいると、店主は焦れたように、
「一回300幻魔石だよ」
と言って、広げた手をひらひらと振った。
僕は布袋から幻魔石を取り出すと、店主に手渡した。布袋は空になってしまった。
「好きな箱を選びな」
そういうと店主は箱を取り出し、幻魔石をしまった。もう後戻りはできない。
店の中を歩き回り、箱を念入りに物色する。どんな箱を選べばいいのだろう。
できれば、剣か盾がいい。少し大きな箱の方がいいのだろうか?しかし、大きな箱に大きなものが入っているとは限らない。

結局は、勘で選ぶしかない。

カウンター近くの黒い箱に目がとまった。考えても仕方がない。僕は思い切って店主に声をかけた。
「この箱にします」
店主は腰を上げ、黒い箱をカウンターに運んだ。
「この箱でいいんだな?」
店主に聞かれ、僕は頷いた。
店主はニヤリと笑い、箱を開けた。
中には、美しい剣が入っていた。
柄を握り、箱から取り出す。
窓から射す陽光に刀身が煌めく。
長い刀身に不釣り合いなほど、その剣は軽かった。
「これは、なんという剣ですか?」
「これは、覇剣カリブルヌスさ」
店主は腰に手を当て、もう一度ニヤリと笑った。
これが、覇剣カリブルヌス……?
名前だけは知っていた。手練れの冒険者が携えているという、あの覇剣カリブルヌス……?
柄を握る手が震える。
「ほ、本物ですか?偽物とかじゃなく?」
「ウチはガチが売りのガチ屋だ。こいつはガチの覇剣カリブルヌスさ」
「ほ、本当にもらっていいんですか?」
「箱から出たものは、ガチでお前のもんさ」
神引きだったな。店主はそう言うと、黒い箱を店の奥に運んでいった。
フラフラと店を出て、剣を眺める。くるりと回って、剣をひと振りしてみる。
軽い。
この軽さならば、空中にいるビーストにも楽々と剣が届くだろう。

広場に戻ると、噴水の階段に腰を下ろし、それから二時間、僕は覇剣カリブルヌスを眺め続けた。



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黒花

コメント

1

ビギナー

ぽぃぽぃ

ID: bz3xr84db6g4

ガチ屋の殺伐としつつもガチな雰囲気、最高です!