げるだの旅日誌

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ミンミの誕生日 #1

ミンミのお誕生日、おめでたい( ˆ̑‵̮ˆ̑ )
まだ始めて二ヶ月が経つか経たないか……
まともにキャラバンをやるつもりではなかったのにミンミとの邂逅で色々変わってしまった感

ということで某所に上げる予定だったミンミのSSでも(SS違い)

前々から書き溜めてとりあえず形に……



是れから綴るはイアルに伝わる無味乾燥の与太話

…………

……


轟音、熱風、衝撃

砂塵が舞い上がり荒野に響く巨大な音
普段は静寂を湛えるこの土地に火の手が上がる
火事か?それとも戦争か?

轟音の発信源に一人燻っている少女の姿あり
これは比喩ではない
所々衣類が焦げて鼻をつく臭いを出しているのだ

「う……うぅ……」

少女は煤に塗れた顔を手で払い身長には似つかわしくない大きな箒を手に取り杖をつくようにしてヨロヨロと立ち上がる……
無事のようだ

それもそのはず、この轟音の張本人が彼女だからだ

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キャラバンストーリーズ外伝
英雄手記 炎の化身 #1
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ドワーフ領から吹き付ける冷たい風に吹き付けられ、少女は身震いをする
荒れ果てたこの地には獲物を求めて彷徨う四足歩行の獣や人を襲う昆虫が跋扈する不毛の地
市井から隔絶された荒地は雲に覆われ暗い

「い……痛っ……」

頭痛に顔を顰めながらかぶりを振っている
このような荒野で一人の少女が何用か?
ほぼ手ぶらの状態で物見遊山でもあるまい

彼女の名前はミンミ・パノフィート・ゴッサブル
キャラバン(彼女が所属する移動式の施設のようなものだ)の仲間や友人からはミンミと呼ばれ親しまれている
まるで御伽噺に現れる魔法使いのような風貌から分かる通り、彼女はまさに魔法使いである
赤茶色のお下げに紺色のローブととんがり帽子、そして帽子の上には使い魔
手に持つ箒も掃除のためだけではない

ミンミの得意とする魔法は炎を操ること
どこからともなく炎を具現化する……
彼女の一族は皆炎の扱いに長けていた

そんな一見便利な魔法ではあるがミンミには一つ問題があったのだ
魔法の制御がまだ不完全なのである

辺りの惨状を見ていただければ分かるかと思うが、明らかに尋常ではない火力だ
ミンミの周囲の地面は焦げ陽炎を生み出している
そう、ミンミの問題は力の暴走で火力が想像以上に高くなるのだ

戦闘時ミンミの役割は主に魔法で敵を倒すこと
それならばから火力は高い方が良いだろう
しかし戦場での死因は仲間からの誤射が四割以上を占めると言われるだけあり、ミンミのそれは明らかに仲間が居れば消し炭になっているほどの火力だ
わずかに生えていたであろう草は舞い散り火の粉となり消えた

「うーん……火力が高すぎたなあ……」

失敗だ

ミンミは箒を再び手に取り一瞥する
この箒は姉が拵えたもので姉からのお下がりだ
そして形見でもある

そう、ミンミの姉……ルヴレは既にこの世には居ないのである
姉は人望のある優秀な魔法使いであったが、病に倒れこの世を去りミンミだけが取り残されてしまった
そして流れで妹のミンミが姉の魔法使いの称号を受け継いだのだ

この世界、イアルで魔法使いはさして珍しいものではない
それこそキャラバンの中には何人か凄腕の魔法使いは居る
しかしパノフィートの称号を持つ姉はミンミにとって偉大なる師匠でもあったのだ

しかし半人前であるミンミはご覧の通り、まだきちんとした魔法の制御法を習得しておらず失敗続きである
姉がいなくなってしまってからは全て独学で魔術を勉強している有様だ
パノフィートを名乗る資格など自分に存在するのか?
懊悩を繰り返し今に至る

そんな根無し草のミンミは周囲から疎んじられる存在であった
それもそのはず、魔法の訓練をすれば家を燃やし、森を焦がし、水を蒸発させた
幸いにも人が亡くなることは無かったが火事による経済的損失は大きい
本来であれば放火犯で逮捕され監獄にて罪を償うべき所であろう

しかしミンミは捕まらなかった
それも姉の残した功績に拠るものだった
イアル……ヒューマン族では名誉を重んじる節があるようでミンミは助かったのだ

とはいえこのままではいずれはダメになるだろう
自分自身はどうだって良いが、姉の名も傷が付く
それだけはミンミも耐えられぬ……

だがまたトラブルを起こしてしまい……
そこから紆余曲折あり、ミンミはこのキャラバン一行に助けられ、成り行きとは言え冒険を共にしているのだ

「ふー……やっぱり意識しすぎると暴走しちゃうなあ……」

ミンミは肩を落とし独りごちた

冒険家は実戦でビースト(イアルでは一般的な魔物の事をビーストと呼ぶ)と戦い倒したり、山を越え谷を越え、必要あらば海をも超え空も飛ぶ
ただでさえ懦弱なミンミには大変な旅である
その中、なんとか魔法の訓練を行い仲間たちへの恩返しをしたい……
そして立派な魔法使いとなり、パノフィートを受け継ぎし偉大な魔法使いの力を手に入れる……
それがミンミの旅の目的であり生きる唯一の意味であった

「んー……まだ時間はあるかなぁ?」

ミンミは伸びをして身体の緊張をほぐす
まだ練習する時間はあるだろうか?

ただでさえ各地を奔走するキャラバンに所属しているミンミが、このような荒地にて修行できる時間出来た訳とは?
実はキャラバンが故障してしまったのである

キャラバンは突如異音を放ち墜落と言っても過言ではない不時着の仕方をして、この荒野に辿り着いた
市街地のど真ん中でなかったのは不幸中の幸いか
そして今では調子の悪い箇所の整備を行う為にメカに詳しいドワーフが修理をしている

キャラバンを完全に直すにはかなり時間がかかる
応急処置が済むまでミンミはこの人気のない所まで足を運び魔法の制御を行うために訓練しているのだった

しかし訓練といえど、やはり独学では限界があるか……
魔法の制御には殆ど進展を見せない
成長の壁に当たったミンミは捨て鉢気味であった
姉から受け継いだ最高位の魔法使いの称号、ミンミに求められる期待、そして煩悶と焦りが心を締め付ける
まだ年端も行かぬミンミにはあまりにも荷が重過ぎるのだ

魔法使いを止めようか……
諦念を抱くミンミではあるが、姉の遺してくれた箒を握りしめる度に何とか思いとどまることが出来ている
脳裏によぎるは姉の笑顔

「次……次こそは……」

再びミンミは箒を構えて精神を集中させる
躍起になり魔法の発動をしても意味がない
自分の理想をイメージしなければ……


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キャラバン・エントランス

キャラバン、それは未知の技術が集結した移動式の絡繰機械である
ロストテクノロジーである僅かなキャラバンを手に入れた冒険者は僥倖だ
キャラバンにはイアルでの冒険に必要な機能を一通り揃えている
イアルの世界のRV車のようなものだろう
ただ規模は桁違いだ

そしてキャラバンの中には玉石混淆、数多の冒険者が集う
キャラバンの表面は金属の光沢が眩しく、竣工当時から良質の素材が使われている証左だ
両サイドにはカノン砲や劇薬の毒を詰めた弾薬、鈍色のボディを持つ機関銃が備え付けられている
キャラバンの武装は戦車といっても差し支えない

そんなキャラバンの入り口は作業をする冒険家たちが喧々諤々忙しなく往来している
故障した箇所を直すためだ

「お花屋やめてあいうえおー」
「えー、なんか変なの」

その脇に二人の少女の姿あり
二人とも漏れなくキャラバンに所属する冒険家である

一人はアメリアと言う名の少女
焦茶のボブカットヘアー、そしてエプロンを身に纏う
彼女は実はパン屋である
父親が失踪してからというもの、アメリアは一人でパン屋を切り盛りしていた
今はパンの研鑽を高めるためキャラバンの一員となり旅をしているのだ

一方ロロミュはアイドルを目指している
緑色のツインテールに手にはトレードアイテムでもあるマイクを常に持っている
アイドルとは主に歌を歌い人々を魅了する職のことである
吟遊詩人のようなストーリーテラーとは若干異なり、エピックではなくその場の思いや願いなどを歌にして歌うのである

実は、二人はミンミの幼馴染であり知己である
ミンミがキャラバンに来た時は三人で奇跡的邂逅に驚きあっていた
キャラバン内でかくれんぼをした事は記憶に新しい

「ふふ、隙があれば発声練習ですか?」
「当たり前よ、私はアイドルなんだから!」

ブイサインをアメリアの眼前まで突き出してはにかむロロミュ
白い歯がまぶしく光る

「それにしてもびっくりしたわよねー、このまま死ぬかと思ったわ」
「本当、助かって良かったよー」

キャラバンは不思議な力で空を飛ぶことができる
しかしその動力源になんらかの原因でトラブルを起こしキャラバンは墜落した、という流れだ

それにしても、何故彼女たちは作業の手伝いをしていないのか?
二人とも機械整備には不向きだからである
キャラバンでの役割はきちんと決まっており、アメリアは食事周りの担当、ロロミュは機内放送周りを担当している

餅は餅屋だ
役割分担が出来ているチームにおいて、不得手の人物が手伝うと返って足手まといになるのはよくある話だ

ちなみにミンミは掃除担当である
箒を持っているからというのもある意味ひとつあるのだが、やはりミンミの炎魔法が起因する
燃えるゴミを纏めて炎魔法で焼却しているミンミの目は少し怖いと評判だ

閑話休題、それら冒険家の邪魔にならないようキャラバンの外二人で他愛のない会話をしているのだった

「修理、いつ終わるのかしら」
「少し話を聞いてきたんだけど、ちゃんと直すためには街へ寄らないとダメみたいですね」
「えー、そうなの?」
「たぶん一度来た道を戻るんだと思うよー」

露骨に態度に出すロロミュ
八つ当たりするようにキャラバンの側面を軽く小突く
ロロミュは早く新しい街に行き服を見たいのだ
アイドルは身嗜みが肝要だ
流行を取り入れ人気を得るのはアイドルとして基本である

一方アメリアもパンの新しい材料を購入するため新たな街へ行きたい気持ちがある
彼女の手にかかれば、ありとあらゆるものが材料となりうる
特に全種族の気にいるパンを作る野心に燃えるアメリアにとってまだ見ぬ町の食材探しは旅の目的の一つだ

「そういえば、ミンミちゃんは何処にいるんでしょう?」
「ミンミ?確か魔法の訓練をするってあっちへ行ったはずよ」

北の方角を指差すロロミュ

「ミンミに用でもあるの?」
「大したことじゃないんだけど、この間一緒にパンを作ろうってミンミちゃんと約束していて……私が誘ったの」

アメリアは破顔させる
しかし直ぐにアメリアの笑顔に影が落ちる

「でもなんか、ミンミちゃん……辛そうだったから心配で……」
「そういやミンミ、最近元気なかったわねー……大丈夫かしら」

ロロミュは顎に手を当てて考えに耽る
二人ともミンミのことに関してはある程度は把握している

アメリアは大切な人が居なくなる悲しみは知っている
そのためミンミになるべく接し、ミンミの悲しみを和らげられればとアメリアは考えていた
折角同じ釜の飯を食べる仲になったのだ、アメリアはミンミとロロミュと共にいる時間を増やせるよう動いていた
そしてアメリア自身も同様にミンミやロロミュと居れば父の失踪も少しの間は忘れられる……
しかし、それ故かミンミに要らぬ負担をかけてしまってはいないか?
アメリアは不安に駆られる

「そーだ!ミンミも本格的にアイドル活動すれば元気になるんじゃないかしら!楽しいし!」
「そ、そうですねぇ?」

軽やかなステップを踏んでミンミの仕草を真似するロロミュ
快活なロロミュは自然と皆を笑顔にする力を持っている……
まさにアイドル活動は彼女にとって転職なのだろう、アメリアは自然と笑みがこぼれる

実際に三人で踊ったこともある
ロロミュの鑑識眼は凄くミンミとアメリアの上達ぶりは凄かった
しかし二人には本気でアイドルに取り組む気は無い
つまりそこで打ち止めだった
アイドルの卵止まりという訳だ
ここだけの話、ロロミュはそんな最高級の卵を手放すつもりはないのだが

「私もアイドルだから、あまり肉体会系みたいなこと言うのは好きじゃないけど……悩みがあるときは体を動かすのが一番って言うじゃない?」
「そうでしたっけ?ロミちゃんは博識なんですねぇ」
「とにかくミンミを探しに行きましょ!ここにいたら騒音で歌の練習しにくいし」
「は、はい!……ちょ、ちょっと待ってー!速いー!」

ロロミュは発声練習を交えながらステップを踏み北の方角へと進み始める
その後を追うアメリア

この彼女たちの行動が後の命運に左右されることになろうとは、まだ彼女たちは微塵も思ってはいなかった


キャラバンストーリーズ外伝
英雄手記 炎の化身 #2へ続く

げるだ

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