大黒天ブラジャーの旅日誌

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追想とポロックス


創作SS第二弾です。
フレである、しろキャラメルさんに向けて書いたポロックスにまつわる話です。
いやに長くなってしまったのと、腐要素ありなので、苦手な方は回れ右してください。
ギルメンに最初に見せたら、設定が分かり難いという事だったので、最初から説明すると、ストーリーにはまったく出てこない(創作の)モード商とポロックスのクロスストーリーです。

では、お粗末ですがどうぞ^ ^

※♦︎パートがモード商♠︎パートがポロックスです
※添付は設定に活かした資料です
※7/3修正、加筆♣︎パートとしてヴァルロア村長の視点を追加しました
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♦︎M.C.495年
けたたましく獰猛な唸り声の様な咆哮が辺りを支配したと感じた
その刹那、己の人生がここで途切れると確信めいた直感が身体を貫く
女は背景を黒く染めていく対象を眺めながら思う
果たして生ある中で何か残すことができただろうかと
デザイナーとしての名声と羨望と嫉妬
そして王妃ミアと歩いた道のりを
選択出来た可能性に悔いを感じる事は果たして傲慢だろうか
しかし逡巡も、感傷の余韻も許さぬ速さで闇は全てを包む
「ヴァルロアごめんね」
それは後に神都の黒炎と呼ばれた不条理であり栄華を極めた都市ファルサロッサを轟音と共に呑み込んだ

♠︎ M.C.500年
「ううううううああああああああああ」
キャラバンのダイニングテーブルに突っ伏したままポロックスは呻き声をあげた
この数日、感情は口から出ては発露を探し、形を見つけられず、霧散させてを繰り返している
理由は分かっている、分かりきっている
ソルレヴィアンのエースに打ちのめされてからいうものの、自身の足下がおぼつかない
今までも揶揄されてこなかったわけではない
ただ多くの中傷は流行に敏感でないのだと自身への正当化も、傷口を最小限に食い止める慰撫も出来ていた
エースの物言いが敵意含んだものであった事は確かだ、ただ目指すべき位置にいる者の言葉として無視は出来なかった
だから今日は今日とてやるせない
「そんな顔でいられたらみんなどうしていいかわからないわよ」
いつもこうるさいミリアの言葉に返す言葉も見つからないので無視することにした
「大丈夫?」とセシリオが覗き込む
まつげなげー、っと邪な気持ちが芽生える、心配されるのも悪くないと、ついつい自身を甘やかしてしまう自分も嫌になる
そしていつも自分は比べてしまう。昔からずっとそうだ
あの日を思い前髪を弄った

♦︎ミアに出会ったのは独立を果たして暫くした頃だ
意気揚々とデビューとは行かなかった
当時貴族のパトロンもいない女のデザイナーが活躍できるような下地もなく、嘲笑と奇異な目を遠慮なく向けられていた
元大手ブランドトップのモード商としての自信は早々に砕かれて、それでも田舎に戻る覚悟は未練が上回って、見放す勇気も持てずにいた
身動き出来ない陰鬱とした日々、王宮の侍女がうらぶれたブティックに足を運んで来たのはそんな時だった
「あなたに仕立ててもらいたい方がいます」
その目付きがきつい女がカウンター越しに発した第一声だった

♠︎ファルサロッサから流れて母さんとルヴイラに入った時の記憶はない
ただ、セシリオ(とミリア)はルブイラでの記憶の原初からそこにいる
よく言えば透明感、虚飾なく言うなら存在の危うさとでも言うのだろうか
まっすぐ見ることを躊躇わせるさせる何かを感じさせると子供ながらに感じてた
なんでも簡単にやってのけてしまう存在が近くにいるというのは存外きつい
本人は才能をひけらかすでもなく、さしたる情熱もなく、淡々とやっているだけなのに自分が持っていたベストを苦もなく更新されるのだ
反面、相手に感情を伝えて友達を作るとか、心情を言葉に置き換えて日誌を書くとかは壊滅的で
「………」で伝わるのは俺とミリアだからって事をもっとわかったほうがいい
だからその幼馴染で超人的に不器用なあいつをいつしか目で追いかけるのは必然だった

♦︎ヴァルロアと名乗ったその女性と連れ立って初めて入った王宮の庭園に彼女はいた
噂に違わぬ美貌だと思った
すらりと伸びた長い手足、ただ存在があまりにも儚げで直視する事を躊躇わせた
小さなリスのような聖獣と戯れていた彼女はこちらを認めると微笑みを返した
核心で胸が高鳴る
遠目でしか見た事がなかった存在が、目の前にいる事だけでも信じられない事なのに、私に服を仕立てろ?
そもそもお抱えのモード商が王宮にはいるのだ
目をつけられたら二度と業界での立身はないだろう
ただ今の自分には捨てる物さえないのだ
上等だ、華々しく散ってやろうと目の前のお方の前に出て膝をついた
後から知った事だがミアの周りは殆ど敵だらけだった
王宮は日夜権謀と建前が混在しており、ミアの意思を通す隙間はなく、ただのお飾りとしてしか見られていなかった
彼女が選んだ抵抗だったのだろう、市中に出た時ブティックのショーウインドウで、私の作ったドレスを見てから、どうしても着たいと告げられた時
もうそれだけで全てを捧げていいと思った

♠︎母さんの染め物を手伝うのは楽しかった
ルブイラの水でないと、この発色は出ないそうだ
ルブイラ産の反物は今では他領からも求められるほどの贅沢品だ
誇りであり、この染め物を自分がより世間に席巻させたいと強く願っている
一度だけなぜ始めたのかを聞いてみたことがある
目を伏せて少し間があったあと「ずっと待っている人がいる」と言って、それ以降口を閉ざしてしまった
まるでマオみたいにどこでもない空間に目を漂わせる姿に、それ以上を聞くことはできなかった
こんな片田舎でも王都なり、他領から多くの買い付けが来る中で、実際に現物を確認しにくるデザイナーも少なくない
その着こなし、そのセンス
染め物だけが世界だった俺を熱狂させた
自分が目指すべき道が見えた気がした
それからというものの、集落にくる人に王都の流行を聞いては思いを馳せた

♦︎ファッションとは女にとっての業である
まるで断捨離をするために買っているのかのごとく、それなのに毎シーズンごと同じような服を新作だと買ってしまうのは女の成せる技だ
それは極楽蝶
それはインドクジャク
羽を広げ自分がより美しい存在であると示す生命の根源的戦い
宮殿で開かれる謁見と舞踏会が決戦場だった
ミアは体調が悪くなったと席を立ったあと、打ち合わせ通り私は彼女の待つ部屋へと走った
ワコクの民族衣装を模したドレス、静脈をなぞるメイク、マガレイトで髪結い
自分が施した対象に息を飲んだのは後にも先にもない
舞踏会に戻ったミアは視線を独占した
紳士淑女が一様に口を大きく開けた姿は愉快を超えて爽快だった
ただこのままでいけばとんでもない騒動になるのは目に見えていた
もう少しで決壊が現れる直前、ソルヴィア王が近寄りミアとなぜか私の名前を呼んだ
「大義である」
その日全てがひっくり返った

♣︎当時ファルサロッサを動かしていたのは重臣達であり、王とてその意思決定を無視する事は出来なかった
その下に紐づく財閥から、御用商人まで神都の派閥闘争は凄惨を極めた
王も疎ましく思っていただろう
いつしか白化粧を施す様になったのは心情を読まれまいとしたのも一端ではないかと思っている
そんな折、突如現れた(連れてきたのは自分だが)彼女は異質そのものだった
王宮では腹芸で示唆を多用する会話を好む為、表情と本心を切り離す事が自分達を守る術だった
だがそんな事は知らぬと言わんばかり、彼女はあまりにも感情が顔に出過ぎていたし、相手からの嫌味と分かれば面と向かって噛みついていた
(そんな彼女を見て、ミア様は面白そうにクスクス笑っていたのだが)
髪結の侍女として潜り込ませた手前、責任を負うのは私だが、不思議と咎める感情は湧かなかった
「立場で語る無能な男に、世辞でも媚を売ることにはもう飽きたの」やれやれと嘯く彼女を眩しく思っていた
勿論誰もが危ない橋だと理解していたし、なぜかと問われれば
「だってこれ戦争でしょう?」
そう、彼女らしさで表現した通り、まさしく我々が戦ったのは私達を取り戻すためだったから

♦︎舞踏会以降ミアのドレスの話題で王宮は浮き足立った
それからはドレスに限らず、公務からカジュアルな私服まで、民衆の関心はミアに向けられ、新しいロイヤルスターのスタイルは一躍モードの先端となり、文字通り神都を席巻する
ミアの専属となった私のブティックは連日とんでもない騒ぎとなり、一夜にしてトップブランドとして走しる事を余儀なくさせた

ミアはよく笑うようになった、らしい
紅玉の戦役で大功を得たという将軍が、遠目にうっとりした顔で口走るからジト目で返した
このむっつりめ不敬だぞ
ポップアイコンとなったミアに他のモード商からも、自分の服を着るように願いが来ているのではないかと聞いてみた
私にも他の貴族からひっきりなしに専属依頼が来るのだ(とてもじゃないが手が回らないから丁重にお断りをしているが)

「いやよ、あなたが取られちゃうじゃない」

これは音だ

「私、独占力が強いのよ知らなかった?」

いたずらっぽくコロコロと笑った
恋に落ちた音がした

♠︎「大丈夫?」
セシリオは少し前に自分で言った事を忘れているかのようにまた尋ねた
いやいやだからだから近いですよセシリオさん
いやなんなん?
唇奪われたいんですか?
「ほっときゃいいのよ、構って欲しいだけなんだから」
ミリア、おまえパンツ見えてるけど絶対教えてやらんわ
言われなくてもわかってる
根拠もなく虚勢を張るのは自分に自信がないから
相手と比べて、自身を慰めるのは自分の生き方に集中できていないから
でもなにかかが引っ掛かっていた
その正体が見えない既視感が不安を助長させている
そしてそれがソルレヴィアンの店で見た帽子だと行き着いた時、顔をもたげて口に出していた
「サギの根帽」

♦︎深淵の穴はすぐそこまで来ていたにも関わらず、私は何も気づけないでいた
いや浮かれていたのだろう、普通に考えれば穏便に済むはずがなかった
誰が絵を書いたのか、幾らでも列挙する事は可能だから犯人探しに意味は無い
王宮に取り巻く者において一番重要なのは既得権益という実を犯したということだ
ミアが姦通の罪を告発され、忌名でファルサロッサを追われるまであっという間だった
もちろんミアが冤罪である事は疑いようもない
ただこちらの陣営がそれを覆せない事もよく分かっていた
ミアを取り巻く環境は想像を超えてクソだった事がはっきりしただけだ
同行を願い出ると、私の手を取って貴方はここに留まって欲しいと懇願された

「あのね、ヴァルロアの地元では染め物が盛んなの」

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

「いつかヴァルロアと二人であなたのお店に卸すのに相応しい反物を作るわ」

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるうずるいずるいずるいずるいずるい

「私がここにいた事が間違いじゃなかったと思いたいの」

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

私までも神都を離れれば、沙汰は世間もあちらの主張を認めた事になるだろう
もちろんブティックを開いたままでいる事で妨害行為は免れない
ただブティックは王宮にあるのではない、市中にあるのだ
ミアの冤罪を拠り所とする市民から希望を奪ってはならなかった
頭では理解していても心では納得はしていない
ただそうせざるを得ないのだと、暴走する自分を抑えるのに必死だった
あの時一緒に行っていればなにか変わっていただろうか
過ぎ去った日の「if」は、なんの答えも持たないし、どんな意味もなさない
確かな事は深淵はその輪郭を広げ、私を飲み込むために待っていた

♣︎アルアリアに来たのはいつ以来だろうか
足を運んだのは息子やミリア達の会話から昔馴染みの名前を聞いたからだ
「ひさしぶりねエース」
「ヴァルロア様も、息災で何よりです」
彼に前に会ったのは彼女の助手としていた時だ
あれから随分と月日が経ったのだと実感する
少しの間、互いに無言の時間が続いた
エースはおもむろに席を立ち、傍らにある彼のデスクから便箋を取り出した
「ずっとあの方は後悔されてました」
嗚呼、なんと残酷だ
やはり自分は彼女の話を聞きたかったのだ
懺悔に近い便りを読みながら自身がどこかそれを求めていた事を実感して忌避したくなる
彼女も求めていた様に、私も赦しを求めていたのだ
「あの帽子」
耐えきれなくなって視線を逸らす様に、話題を変えた
「ええ、見る人が見れば気づくでしょうね」
「大丈夫なの?」
「もう時代が違います、リバイバルする期間としては充分ですよ」
求めていた答えとは違うけど、彼なりの優しさだろう
今もまだ戦っていると、その目は語っていた
その後二人で窓辺を眺める時間だけが重なっていった
帰り際、息子が世話になったと伝えると腰を抜かした様な顔をしていた

♦︎あの日の事は殆ど記憶がない
ヴァルロアから届いたミアの訃報
ファルサロッサからルヴイラまでの道程は何日も要するというのに
次のシーンではヴァルロアに掴みかかり、なじり、暴言をぶつけ、胸を叩き、嗚咽をあげ、神を呪い、慟哭に暮れた
あの時、私に向けたヴァルロアの顔は生涯忘れないだろう

泣き暮れた体力が尽きかけた頃
一人にされた部屋に気配があった
「マオ、お互い主人に置いてかれちゃったね」
その小さな聖獣は小さく鳴いて離れていったと思ったら、振り返ってもう一度鳴いた
ついてこいという事だろうか?
そして別の部屋に入りベットに眠る小さな女の子の隣で身体丸めて眠った
笑ってしまった
ちっともわかんないや
「君の新たな主人なんだね」
マオは片目だけ上げてこちらを見上げ、また目を伏せてしまった
ありがとうマオ、まだ笑えるみたいだ
今はまだどこにいてもミアを探してしまうけど
ちゃんと笑えるようになったら、ヴァルロアに謝りに来なきゃ
よろよろと朝霧が煙る道を別れも告げずに神都に向けて歩いた

♠︎「サギの根帽」
ハット帽の亜種で、ツバの片方が反りあがって、徐々に小さくなるクラウンが特徴的だ
サギの羽をあしらい、中性的な印象を持たせている
一昔前に王妃がヴァカンス先で身につけていたことでフューチャーされ、流行を馳せた

その帽子を被ったその人を見たのは遠い記憶
今の今までずっと忘れていた
あの時はまだ幼く、相手への配慮も自分で形容する言葉も持っていなかった
洗練されたスタイルで、こんな服を作れる様にになりたいと願った自分の原点を垣間見た気がして暫く放心した

「ポロ、ごはんだってー」
いつしかセシリオが呼んでいた

なぜそんなに気になるのかはわからない
逡巡したのも束の間、セシリオの下へと駆け寄る
今日の献立はなんだとか、当番は誰だとか、たわいもない話をしながら、皆がいる場所まで彼と歩幅を合わせて歩いた

♦︎数年が流れ、民衆にとってあの日の事はすでに過去のものとなっていた
モードも人も街も常に変わりゆく、私の店所も最初に開いたメイン通りを外れた場所に戻っていた
今は自室で手紙を読んでいる
ヴァルロアから納得のいく反物が出来たから送るので、良かったら使って欲しいと添えてあった
とてもそっけなく、そして優しい
彼女らしいと思った
手紙を畳んで引き出しに戻したあと、店を閉めて旅支度をしてからルヴイラへと向かった

間もなく到着すると思うと
決意していた心が揺らいでくる
集落に入る手前で子供達がスフィラ集めをしている
「「こんにちは」」
あっ、一人はあの時の女の子だ
マオが近くにいる
私に一瞥した後、鼻を鳴らしてからまた女の子に向いてしまった
興味がなくなったらしい笑
「なんの用ですか?」
男の子が尋ねてきた
反物の買い付けに来たと伝えた
「ああ母さんに用ですね、ごめんなさい今ちょっと出かけているんです」
ヴァルロアの息子か!大きくなってて月日の流れを感じる
良かったねちょっと細目だけど目付きの悪さまで似なくて
「大丈夫だよ勝手に来たんだし、時間もあるから待つよ」
どうしようかと逡巡していると、ヴァルロアの息子が何かこちらを気にしている
「デザイナーの人ですか?」
そうだと伝えるとなぜか首を捻っていた
「おばさん、前に来た買い付けの人が言ってた少し前に流行ってたスタイルだなって」
むっとなったが、どちらも道理なので否定しない
「興味があるの?」
すごい目を輝かせている、犬みたい
自分でブランドを立ち上げ、世間を席巻するデザイナーとして名を馳せたいとの事だった
ふむ、別にいいことばかりじゃないよと口に出すと、怪訝そうな顔でこちらを覗いてる

「人という者はね、誰かと比べると安心するの」
「でもね、ずっとその中でもがいていても、どうしようもならないと往生する帰路が必ずくるわ」
「もうだめだと吐き捨てて絶望する事に飽きたら、自分が生きる事に集中するの」
「誰かのために自分を捧げられたら、自分が生きることに苦しくなくなるから」

よくわからないよと、その子は視線を外した
「わからなくていいのよ」
自然と笑顔になれた気がした
頑張れよ後輩
彼の視線を追うと同年代の男の子を追いかけていた
あらあら、君も苦労するね
「さて、おばちゃんはもう帰るね」
「え、もうちょっとで母さん帰ってくるよ」
「いいのいいの、もっとちゃんとしなきゃ、ちゃんと心から笑える様になったら、その時はお酒でも飲みながら昔話でもしましょうとお母さんに伝えて」
そうだこれからだ、自分が生きる事に必死になる
それだけで少し足が軽くなったような気がした








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