菊正宗由信の旅日誌

公開

~「変容する魔獣」を聞きながら~

喧ましい咆哮が、ねとりとした大気を震わせる。響く剣戟とスフィラの奔流が重なり合い、空に浮かぶ仮初の大地が揺れる。
人類の敵、エニグマ内部にて対峙した強大な魔獣。イモムシの型を模したそれは、その体躯に相応しい力で持ってキャラバン乗りのギルドを蹂躙した。
「もう……戦える人がいないの……!」
「まだ大丈夫! まだビーストちゃん達が残ってるからね!」
「陣形を崩すな、増援は必ずやって来るぞ!」
「ヒーラーが居ない! バッファーも! もう壺しか残ってない!」
「てめーら、後で覚えておけよ……!」
まさに死闘。仲間が一人、また一人と力尽き倒れていく。
ギルドの繋がりで集まった者達も、テイムしたビースト達も例外なく、魔獣から噴き出す毒霧によって地に伏せた。肌を掠める濃密な死の予感を振り払い、それでも戦い続けるギルドの面々。
「う、おおおおおおおおお!」
そうして、終わるとも知れない時間を経て、突き立てられた一振りの剣。
ウェインの子が死に物狂いで投擲した愛剣が、魔獣の核を貫いたのだ!

魔獣の動きが止まり……視界を塞ぎ、臓腑を焼いた濃霧が晴れた。

「やった……! やったよお!!」
リンドドの子が勝鬨を上げた。勝てないと思っていた強敵からの、薄氷の勝利。
魔獣の攻撃によって散らばった仲間たちも同様に歓喜し、互いの健闘を称え合う。
「正直、もう駄目かと思いました……」
「ビーストちゃん達がいてくれたからこその勝利だよねえ」
「ダメ押しの壺が効いたと思うわ」
「てめーら、後で覚えておけよ……!」
そこには種族の垣根はない。かつてのノーファスライルが成したであろう光景が、時代を超えて蘇っていた。


喜びに湧く、その最中。
ふいに、ばらり、と。
力尽きた筈の魔獣の残骸が、大きく音を立てた。


「な、なんだ!?」
ザッハの子が声を上げる。それが呼び水となったかは定かではないが、エニグマ内部が残骸を起点として蠢き始めた。

魔獣の外殻がひび割れ、黒光を放つ。
ボロボロと剥がれていく外殻の隙間から、昆虫の翅を模した部位が姿を現す。
外殻の底部からは巨大な脚が6本生え、足を突き立てた地面に大きく亀裂を開ける。
変容する……魔獣。

外殻全てを捨て去り、恐るべき魔獣が姿を現した。
胴長の体躯から6本の脚、6枚の翅。その胴よりも巨大な頭には6本の触覚、6対の複眼。型としては蝶若しくは蛾に近いが、あくまで既存の生物に当てはめるなら、という接頭語が付くだろう。
翅を器用にしならせ、魔獣が宙を舞う。

■●■●■●■●――――――!!!!

形容しがたい、形容することの出来ない咆哮を、魔獣が上げた。

誰もが絶望した。誰もが、声を上げることすら出来なかった。
死力を尽くしたその先に待っていたのは、更なる絶望であったから。


「あのぉ……」


そんな中、真っ先に口を開いたのは、炎の化身。当代のパノフィートの称号を持つ少女であった。箒をひとふりしながらおずおずと、しかし通る声で言葉を紡ぐ。

「とりあえず……燃やせば良いんですよね?」

その場の誰もかも、開いた口が塞がらなかった。別の意味で、声を上げることすら出来なかった。
なんだ、それは。ここまで来て、こんな状況であってもそれなのか。物事の判断基準が「燃えるものか、そうでないか」しかないのか。
明らかに場違いで、いつも通りで。空気が読めず、むしろ空気を燃やしてるとしか思えないそれが。
「そうだよな……とにかくやれば良いんだよな」
ウェインの子が頷いた。こんなにも、心を鼓舞するなんて思わなかったのだ……!

手に握る剣に、槍に、斧に、杖に、盾に。
大砲に、箒に、ブラシに、タンバリンに。
フラスコに、ペンに、ワインに、酒樽に。
各々、力が戻っていく。

「いくぞぉおおおおお!」

最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。

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エニグマⅢの芋虫と今回初めて対峙して、ここまで妄想しました(;^ω^)ジッサイハ タオセテ マセン
2周年祭の最後のサプライズとして芋虫は羽化し、蝶となって羽ばたくことをここに予言します(/・ω・)/

キャラスト2周年、おめでとうございました<m(__)m>

菊正宗由信

コメント

1

ちょこ

ID: 9stre9friy99

これは、、、あの時の激戦、、、、!Σ( ̄□ ̄;)

まにまにの絆の物語、、、、、!!

記録していたとは、さすが正宗さん!!

2

イアルの冒険者

菊正宗由信

ID: qsk7wjrvxuuz

>> 1
マスター、お疲れ様でございます!しれっと記録しておりました(≧∇≦)今回は倒せず終いでしたが、次回はリベンジしましょう!
やる時は全力でやるギルド、そんなまにまに帝国が私は大好きです(*´∀`*)