ソエの旅日誌

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亀が帰って来た話【前編】


突然ですが
あなたは亀を信じますか?


嘘かまことか、都市伝説か……


これは イアルを自由にかけまわった


とある“ 亀プレイヤー ”の物語です。


長文、俗文、創作、オマージュ、
スマートフォンから投稿の為、
あしからずご了承ください。








































「カメバックキャンペーン」に釣られ、

引退した 佐渡島に出張していた亀さんが
イアルに戻って来ました。

泣きながら 種籾(たねもみ)を握って
帰って来たのです。

何があったのか尋ねると、
浜で“大きな いじめっ子”たちに 襲われて
苦いピーマンを食べさせられたり、
鼻の先にサメの脂を塗られていたそうな。


亀さんは、ちょっと気まずそうな顔で
ことの顛末(てんまつ)を語り始めました……



































                    ——ここは、イアルの佐渡島——


浜辺を 歩いていた時のこと。

食糧難に苦しんでいる村のため、
半年前からコツコツとかき集めてきた
種籾(たねもみ)をやっと持って帰れる。

そう思った次の瞬間、
後頭部に激しい痛みを感じたのです。

何が起こっているのか 理解出来ずにいると、
すかさず次は 背中へと——


「なに持ってやがる、亀さんよお〜」


ここでやっと、自分が蹴られたと知り、
気付けば 目の前に モヒカンヘアーの
大きな子供たちが立っていました。


——逃げられない。


悟った亀さんは、懇願(こんがん)します。


「助けてくれ、わしはこの種モミをどうしても
村にとどけねばならんのじゃ」


それに対し、
一人のモヒカンが 凄みをきかせました。


「つべこべ言わず、そいつをよこしな!」


亀さんも、負けじと答えます——


「今ある食糧はいずれは消える」
「だが、その種モミさえあれば 米が出来る」
「そうすれば、奪い合うことも 争いもなくなる」

「頼む! 後生(ごしょう)じゃあ! 」
「今日より、明日なんじゃ〜!」


(何かどこかで聞いたセリフですね……)


亀さんは、何度も何度も 頭を下げますが
いじめっ子たちの猛攻は止まらず

「なおさらその種モミを食いたくなったぜ!」と

亀さんの頭に髷(まげ)を乗せてみたり、
甲羅へ塩をすり込んだり、
最後は、まわしを締め付けました。


どうやら“取組み”の準備が行われる模様です。


「亀さん、やろうぜ!」
「俺たちと 裸の付き合いってヤツをよ!」


いじめっ子は 毛を逆立てヒャッハーしました。


恐ろしくなった亀さんは、
頭に髷(まげ)を乗せたまま 小走りで逃げ、

運良く見つけたライフセーバーに
拡声器を借りて、助けを求めたのです。


「どなたか、浦島という方はおりませんか〜」
「亀を愛する、太郎という方はおりませんか〜」


海は碧(あお)く、潮風は頬をかすめるだけ。
誰一人としてその声に耳を貸す者はいません。


どうやら「バフレス」に かかっている様です。



そこへ ようやく現れた若者は、開口一番

「ちょすな! ちょすな!」
「わがんね! わがんねえ!」
「スッポン、くらつけるな!!」と

いきなり大声でブチ切れました。


方言がキツすぎて よく分かりませんが、
恐らく 「触るな」 「だめだ」 「殴るな」
のことなのでしょう。


『浦島太郎』というこの人物——
東北から来た 出稼ぎ漁師で、

ご近所からは “海岸通りのバーサーカー”
と呼ばれていました。


「ちげ〜よう、コイツは亀。 亀さんだぜぇ?」


腕にボウガンを仕込んだモヒカンが答えると、
浦島さんは とてもがっかりして

「ほんに、スッポンじゃねぇのが」
「んだば食っても、うまぐねぇが」
「いやまでよ。まだ、まま食ってねぇな……」 

「ほんで、なした?」
「おめだづ、肝(きも) かねぇってか?」
「あんべわり〜のかあ?」


——恐らく脳波が振り切れたのでしょう。
ちょっと なに言っているのか
分かりませんが、

(本当にスッポンじゃないのか)
(それなら、食べても美味しくないか)
(いやまてよ。まだ、ご飯食べてないな……)

(それで、どうした?)
(お前ら、肝、食べないのか?)
(具合でも、悪いのか?)


その後すぐさま子供たちと、
土俵作りに取り掛かりました。

周りはワイワイ、ガヤガヤのお祭り騒ぎ。
太郎さんに“生類憐みの令”は通じません。


そうこうしている間に、土俵もほぼ出来上がり

「浦島さん! 」
「いえ、浦島大王さま!」
「ゴッドサークルが出来上がりましたが、
いかがなさいますか?」

の合図と共に、全ての準備が整ったのです。


大きな子供たちと、ネジの外れた大王様は 
奇(く)しくも利害が一致して

「おめだづ、いぐが!? 」
「イエス! ヒャッハー!!」

鬨(とき)の声を上げました。


そうです、これがあの有名な
「佐渡島・タートル事変」です。

(お前たち、やるか!?)
(大王様の、仰せのままに!!)



亀さんはこのままだと、
小童(こわっぱ)どもに「亀子玉」を抜かれ( 1)
濃厚な肝醤油へと メタモルフォーゼする。

そう思ったんでしょうね……


カメバックキャンペーン特典のひとつ、
☆6装備「棒棒棒棒・棒棒棒」を使い(2)

「ウヌら喰らえ! こいつが本場のうまい棒よ!」
「ハジケてま〜ざれっ!」 と言って、

ヒャッハーらには「砂来身味」を、
ウラシマさんには「血威図味」をぶち込んで、
竜宮城へ 着払いで送ってあげたのです。


亀さんは、
竜宮城に行かないタイプの亀でした。


まだ息のあるヒャッハーたちは亀さんに

「頼む!俺たちが悪かった!」
「せめてバリカン、バリカンにしてくれ!」
と命乞い(モヒカン乞い)をしましたが

「ダメだ!  一枚刃のカミソリでいく!」と
答えて 亀さん怒りの斬鉄剣が炸裂したのです。


「お前らに、亀と遊ぶ資格はねぇ!!」


世紀末の亀は、たいそう お怒りになりました。

しかし、心優しき亀さんは 
命までも奪おうとせず、
胸を打たれたヒャッハーどもは、

闘う僧侶“バトルモンク”として
再就職の道を歩んだのです。


無事、種籾(たねもみ)を取り戻し


「今日より明日」
「久しぶりに良いこと言った気がする」


亀さんは、そのセリフを言ったか否(いな)か
刈ったばかりのモヒカンと、
バッキバキに折った釣り竿を背に

「ニツ(ふたつ)亀 海水浴場」を
後にしたそうな。


そして最後に両手を広げて、空に向かい
「ジャスティス……」と言いました。


空は緋(あか)く、
夕焼け小焼けで真っ赤でした。






























——相変わらず、無茶苦茶ですね。


いじめっ子が、よほど怖かったのでしょうか。


そして、あるんだイアルに佐渡島……


ちなみに『浦島太郎』の亀は“ウミガメ”で、
こちらの亀さんは“リクガメ”ではないのか?

ともあれ、無事でほっとしました。



それから、冒頭に書くつもりが、
いやはや遅くなって 本当にすいません。

この亀さんという人物のアバターは


——メルロなのです。


ようやく説明 出来ました。

それゆえに“亀さん”なのです。





はてさて、考えてみると亀さんとの関係は 
先輩後輩、師匠と弟子、昔の友は今も友。


『俺とお前と大五郎』でしょうか。


さらに長くなりますが、そんな大五郎について
お話してみようかと思います。

のろのろと「亀」のように
ゆっくり読んで頂けると幸いです。



































自分にとって初めてのMMO RPG
それがこの『CARAVAN STORIES 』
略してキャラスト 。


 
MMO RPGとは(以下簡略)
「Massively Multiplayer Online 
Role-Playing Game」の
頭文字を取ったもので、
インターネット上で様々なプレイヤーと
リアルタイムで大規模な戦闘や
協力プレイが出来るというもの。


わたくし、この手のゲームは初めてで、
右も左も勝手が分からず
ストーリーさえクリア出来れば良いと
考えていた冒険者、
いわゆる“ソロプレイヤー”の1人でした。

たまにギルドへ勧誘される事は
あったのですが、
まだまだ持ちキャラも弱く、
やっていける自信も無かった為、
正直 あまり乗る気ではなかったのです。


長らくソロで遊んでいたある日の事。


南ロストフ荒野でメンダコを狩っていたら、
岩陰からこちらを覗(のぞ)く
一匹の怪しい亀さんに気が付きました。(3)

「何だろう? めっちゃ 見られてるなぁ」

そう訝(いぶか)しんでいると、
突然、画面右下の吹き出しが赤く点滅し

(´・ω・`)  「えっ? な〜に?」
と思ったのがファーストコンタクトでした。


「今 ちょっと、よろしいですか?」

「はい……何でしょうか?」だったと思います。


うちのギルドに入りませんか?


タコを狩っていたら、亀に誘われるという
『ファイナルファンタジー』を体験したあの日は
今でもはっきり覚えております。

先程も書いた通り、当時はごく稀(まれ)に
ギルドに勧誘される事はありましたが、
それはあくまで“無言の招待通知”を受ける
というもの。

アバター越しとはいえ、まさか本人に直接
誘われるとは、こちらは夢にも思いません。


その方を、旅日誌で以前から知っていたため
少しだけ会話(チャット)をすると、
恥ずかしそうに 照れ笑いを返してくれたのが
第一印象でした。


すぐには決断が出来なかった為、
まずはフレンド申請だけということに。


スタンプ以外のチャットは久し振りで、
緊張してあたふたしました。


「そうか……そうだよな」
「ゲームの向こう側にも、自分と同じ様な
生身のプレイヤーが、存在しているんだよな」


「MMO RPG」というものを、
その時ふと 実感させられたのです。


たまに何かのイベントで、
その方とばったり会い
「ささやき」でのチャットはありましたが、
半年位ですかね……

今更ながらギルドというものに
入ってみようと決めたのは。


甕(かめ)が亀を有するギルドで、
「亀完備」という甘い罠にはめられ入団。

決してゴリゴリのゴリラではないけれど
皆コツコツ自分のペースで活動しており、

基本は自由、
自由なゴリラ、
むしろゴリラなゴリラーマン……


池戸定治(いけど さだはる)でした。


当のマスター本人だけは破格の待遇で
「亀 手当て」が付いており——

交通費無料、脱走防止の金網設置、
冬眠時の24時間 監視体制(生存確認)
ただし冬眠する(したくない)の意思確認あり。

転倒時の起き上がり保証、朝のちゃんこ、
サルモネラ菌の無償除去、昼のちゃんこ、
毒味役と、亀武者の導入、3時のちゃんこ、
鍋奉行の見回り、夜のちゃんこ、
寝ながらちゃんこ、夜明けのちゃんこ、

そして毎週土曜日はバナナが支給され、( 4)
福利厚生がとても手厚い環境でした。


時間になると、
囚人達が「ソイヤ! ソイヤ!」とかつぐ
世紀末の乗り物で 颯爽(さっそう)と登場。

かたわらには いつも蝶々サンバがおり、
引きちぎった革ジャンにデカい鎖をぶら下げて

“これでもかというほど”

虎のパンツで大通りを練り歩くのです。


「終わりじゃ、ヤツは虎パンじゃ……」
「かぶきにかぶいた、かぶき者じゃあ!」と
街中大騒ぎのプチパニック。

そんな老人達をガン無視し、かぶき者は

「夜はカレーライスが食べたい」

と言い放ち( 5)
ジグザグサンバで夜の街へ帰って行きました。


アイツの噂でチャンバも走ったのです。


「これが、ギルドというものか!」
「これが、マスターというものか!」

全身の震えが止まらず、
何もかもが、初めての経験でした。


また、亀さんはギルドマスターを
任されているだけあって とても強く、

“ありとあらゆるウェポン”に精通しており

瓶のフタ、へちま、とうもろこしのヒゲ、
アイスラッガー、信じる心、
パンスト、スポンジ、柱サボテン、
納豆キナーゼ、ビフィズス菌など、
武器とは思えない物まで、扱えたのです。


かくして、亀さんの評判を聞きつけた
最強の強者(つわもの)どもが、
自分もぜひ 弟子にと
イアル各地からぞくぞくと集結しました。

忘却のトメ、二度寝の平八、
痛風の田吾作、疲労骨折のチヨ、
親知らずの三郎、かすみ目の五郎、
ものもらいの定治に 逆さまつげのウメなど、

いずれも知らぬ者はいない猛者どもです。


亀さんの勢いはとどまることを知らず

「こわくないよ。甲羅はトモダチ」

と言って、甲羅とボディを合体(ドッキング)
させる離れ技を披露すると、人々は彼を

『スカイラブハリケーン』

と褒め称えました。


そんな亀さんも、
ただひとり“死の呪文”を扱うサブマスター
だけには頭が上がらず、駄々をこねる度
石ザキ君と森ザキ君が呼ばれ


冬眠の向こう側」へと連れて行かれたのです。


石ザキ君は「おい、早くいこうぜ!」と
終始 面倒くさそうにしていましたが、
森ザキ君は「絶対に亀子玉をとってやる!」と
よく分からない謎の使命に燃えており、

怖くなった亀さんは、
背中の甲羅を森ザキ君の顔めがけて
力いっぱいに投げつけました。

すると見事、顔面に六角形の凶器が決まり、
吹っ飛んだ森ザキ君は 恐怖で足がすくんで
「亀子玉」がとれなくなってしまったのです。


「こわい……タートルボールが怖い」


これはマズいと思った亀さんは、
すかさず得意の
「こわくないよ。甲羅はトモダチ」で
森ザキ君を洗脳し、この危機を脱却しました。


どんな困難をも乗り越えられる
“スーパー”な言葉、それが「甲羅はトモダチ」


しかし サブマスターは、
たまに間違えてニフラムを唱えてしまう為、
じゃない方の「硬ぇフラムさん」が
来てしまい、危うく亀さんを
スクラップにするところだったのです。


またその頃 「亀子玉」の希少価値も年々上り、
時の権力者 カーネニー・モノイワセールは

「あの玉 何が何でも欲しい!」
「胸に7つ、埋めてみたい!」と無茶を言い、

手を変え品を変え、亀さんのご機嫌をとり、
なんとかタートルボールを手に入れようと
画策(かくさく)しました。


そうしてこの亀子玉なるものは、
後にこう呼ばれたのです。


ビーストの輝宝玉”と……



亀さんが乗る
“世紀末の乗り物”にはナビが無く、
かつぎ手達が方向音痴しかいなかったため、
よく「奈落の大階層」や「経験値の獲域」で
迷子になってしまいました。

「玉」を欲しがるプレイヤーが沢山いたせいか、
緊張して不安になったんでしょうね。
こっそり催(もよお)していたそうです。

「ナイショだよ」

ああ、なるほど納得です。
あれは亀さんの忘れ物だったのですね。


「昔、ザリガニさんも『ザリ子玉』を
とられかけたらしいから気をつけないとね」

小声でこっそり教えてくれました。


民衆は余りにも「亀さん! 亀さん!」と玉を
欲するので、プレッシャーに弱い亀さんは途中 
謎の絶食になってしまいました。
道端の草に見向きもしなくなったのです。


毎日出ていた亀子玉も3日に一度になり、
ついには「ダークマター」が出始めました。


事態を重く見た村長 モーロヘーヤ(83.1歳)は

「皆の衆……もう放っておいてやろう」
「亀さまは疲れたのじゃ、良いな?」
「放っておくのじゃ! ほっとけ!」と
皆を戒(いまし)め 御神体を作り

「亀さま」 「ほっとけ様」と呼んで
崇(あが)め奉(たてまつ)りました。( 6)

神事の際は 祝詞(のりと)が唱えられ、
民衆達は、それはそれは
丁寧にお祀(まつ)りしたそうな。( 7)


亀さまは甘党だったため
“甘きもの”をお供えし「カメ騒動」は 
これにてようやく収拾したのです。


他にも毎晩 隙を見ては「亀分身の術」を使い、
近所の小麦農家ライオットさんの所へ
キャベツや小松菜を、おねだりに行くため

「また来たのが、あの亀〜! 」が
毎度おなじみの光景でした。

とはいえ、甘えた顔をして何度も
チラチラ こちらを見て来る姿に

「わがった、わがった、オラの負けだ」と
ライオットさんはいつも根負けしたのです。


亀さんは、とにかく出されたものを一生懸命
“あむあむ”や“もぐもぐ”して食べるため、

その愛らしい姿をこっそり見ていた
果実農家のミグノノさんは、ライオットさんに
嫉妬の炎で「メラメーラ」しました。

「このまま、この亀を奪い去りたい……」


天の邪鬼で頑固者、自由奔放で食いしん坊。

それに加えて、ちょっぴりシャイな
この火亀(ほかめ)さまは、とても魅力的で
「カメスマ性」があったのです。






























【後編】へ続く


ソエ

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