~ Prologue ~
これは、
ある場所、ある時代の、
愛情の物語。
ある場所、ある時代の、
愛情の物語。
~ 1. Never Love Me ~
わたしは物心ついたとき、既に奴隷だった。
わたしの両親は奴隷だった。
奴隷の娘は、当然奴隷なのだ。
わたしは当然、奴隷商人によって売られた。
奴隷を買う者は、奴隷を物として扱う。
わたしは物だった。
感情を持ってはいけないのだ。
どんな感情でも。
感情を持った瞬間、わたしはこの世からいなくならなくてはいけないのだ。
幼くして、その事だけはわかっていた。
憎悪、憤怒、歓喜、愛情。
何も感じない。
感じてはいけない。
わたしは、ただの物なのだ。
主人から、
どんな事を言われようとも、
どんな事をされようとも、
なにも感じてはいけない、
なにも考えてはいけない。
わたしの両親は奴隷だった。
奴隷の娘は、当然奴隷なのだ。
わたしは当然、奴隷商人によって売られた。
奴隷を買う者は、奴隷を物として扱う。
わたしは物だった。
感情を持ってはいけないのだ。
どんな感情でも。
感情を持った瞬間、わたしはこの世からいなくならなくてはいけないのだ。
幼くして、その事だけはわかっていた。
憎悪、憤怒、歓喜、愛情。
何も感じない。
感じてはいけない。
わたしは、ただの物なのだ。
主人から、
どんな事を言われようとも、
どんな事をされようとも、
なにも感じてはいけない、
なにも考えてはいけない。
~ 2. Never Love You ~
何をしてもなんの反応もせず、
ただひたすら命令従うわたしに、
主人は飽きたらしい。
主人は奴隷商人にわたしを売った。
そして、
わたしはまた売られていくのだ。
それがわたしなのだ。
事実のみを受け入れ、
なにも感じてはいけないのだ。
…
「こいつは何の感情も示しませんが、本当に宜しいのですか?」
「ええ、いいのです。」
「しかし、既に沢山の奴隷をお持ちでいらっしゃる。なぜこいつを?」
「理由などありません。ただ、欲しいだけよ。」
わたしは新しい主人の所へ売られていった。
「貴方、名前はなんて言うのかしら?」
「…」
「話すことが出来ないのかしら?」
「…」
「ふふっ。いいわね、そのなんの感情もない目。
いいこと、貴方は私の養女になるわ。
ただし、なんの権利も与えない。
ただの奴隷と同じ。
意味がわからないでしょ?
いいのよ、意味なんてないもの。」
「…」
「…そう、まぁいいわ。エスト!」
「はい。ここにおります。」
「この子の面倒をみてあげなさい。1人前に働けるようにするのよ。」
「承知致しました。」
エストと呼ばれた女性について、
古い、木でできた小屋に連れていかれた。
…
「私はエスト。貴方、名前はなんて言うの?」
「…」
「私もここの奴隷なの。エルフよ。初めて見たかしら?」
「…」
「ふふ。怖がる事ないわ。私がいつも一緒にいてあげるからね。」
「…」
「大丈夫よ。安心して。」
エストはわたしにここでの仕事を教えてくれた。
エストはわたしに決して怒らなかった。
エストは、
いつでも優しく、
いつでも笑顔だった。
エストは、笑うと目がなくなる。
細い目をしたエスト。
うさぎと同じ、赤い、エストの目。
その目を見ると、何かに包まれた気持ちになる。
暖かい、柔らかい、心地いい何か。
「いい?私達は奴隷としてここにいる。でもね、私たちは物じゃないの。」
「…物じゃない?」
「そう。生きているの。生きている以上、私達には自由があるのよ。」
「…自由?」
「そう、自由。楽しければ笑っていいの。悲しければ泣いていいの。」
「…」
新たな養母も、前の主人と同じだ。
わたしやエストを玩具のように扱うこともある。
少しの不手際で、生々しい傷が増えていく。
ただ、
ひとつだけ違うことがある。
いままで、どこにもいなかった。
わたしに優しくしてくれるひと。
わたしを暖かくしてくれるひと。
わたしの中で、
何かが、
少しずつ変わっていった。
ただひたすら命令従うわたしに、
主人は飽きたらしい。
主人は奴隷商人にわたしを売った。
そして、
わたしはまた売られていくのだ。
それがわたしなのだ。
事実のみを受け入れ、
なにも感じてはいけないのだ。
…
「こいつは何の感情も示しませんが、本当に宜しいのですか?」
「ええ、いいのです。」
「しかし、既に沢山の奴隷をお持ちでいらっしゃる。なぜこいつを?」
「理由などありません。ただ、欲しいだけよ。」
わたしは新しい主人の所へ売られていった。
「貴方、名前はなんて言うのかしら?」
「…」
「話すことが出来ないのかしら?」
「…」
「ふふっ。いいわね、そのなんの感情もない目。
いいこと、貴方は私の養女になるわ。
ただし、なんの権利も与えない。
ただの奴隷と同じ。
意味がわからないでしょ?
いいのよ、意味なんてないもの。」
「…」
「…そう、まぁいいわ。エスト!」
「はい。ここにおります。」
「この子の面倒をみてあげなさい。1人前に働けるようにするのよ。」
「承知致しました。」
エストと呼ばれた女性について、
古い、木でできた小屋に連れていかれた。
…
「私はエスト。貴方、名前はなんて言うの?」
「…」
「私もここの奴隷なの。エルフよ。初めて見たかしら?」
「…」
「ふふ。怖がる事ないわ。私がいつも一緒にいてあげるからね。」
「…」
「大丈夫よ。安心して。」
エストはわたしにここでの仕事を教えてくれた。
エストはわたしに決して怒らなかった。
エストは、
いつでも優しく、
いつでも笑顔だった。
エストは、笑うと目がなくなる。
細い目をしたエスト。
うさぎと同じ、赤い、エストの目。
その目を見ると、何かに包まれた気持ちになる。
暖かい、柔らかい、心地いい何か。
「いい?私達は奴隷としてここにいる。でもね、私たちは物じゃないの。」
「…物じゃない?」
「そう。生きているの。生きている以上、私達には自由があるのよ。」
「…自由?」
「そう、自由。楽しければ笑っていいの。悲しければ泣いていいの。」
「…」
新たな養母も、前の主人と同じだ。
わたしやエストを玩具のように扱うこともある。
少しの不手際で、生々しい傷が増えていく。
ただ、
ひとつだけ違うことがある。
いままで、どこにもいなかった。
わたしに優しくしてくれるひと。
わたしを暖かくしてくれるひと。
わたしの中で、
何かが、
少しずつ変わっていった。
~ 3. Never Hate You ~
「エスト…」
「ん?どうしたの?」
「母上様は、なぜ沢山の奴隷をここに住ませているの?」
「んー、そうね。ご主人様はこの国のとても偉い人なの。お金も沢山あるわ。」
「沢山?なんでも買えるの?」
「そうよ。なんでも買えるの。だから少しでも目に止まった奴隷を買うのだと思うわ。」
「…エストは母上様のこと、すきなの?」
「えっ…なぜ?」
「エストはいつも母上様を見ているから。」
「ふふっ。私がご主人様を見ているのは、それがお仕事だからなの。」
「お仕事?」
「そう。私のお仕事。」
「じゃあーわたしもずっと母上様をみないとだめなの?」
「ふふっ。いいえ、貴方は見なくてもいいわ。私は貴方がとっても大事。だから私は貴方も見ているわ。」
「…じゃーわたしもエストを見てるね!」
「えっ?何故かしら?」
「わたし、エストのことがとっても好きだから…」
エストは、
いつものように、
目をなくして笑った。
わたしも同じように笑った。
それなのに、
なんでエストの赤い目から、
涙がこぼれたのだろう。
「ん?どうしたの?」
「母上様は、なぜ沢山の奴隷をここに住ませているの?」
「んー、そうね。ご主人様はこの国のとても偉い人なの。お金も沢山あるわ。」
「沢山?なんでも買えるの?」
「そうよ。なんでも買えるの。だから少しでも目に止まった奴隷を買うのだと思うわ。」
「…エストは母上様のこと、すきなの?」
「えっ…なぜ?」
「エストはいつも母上様を見ているから。」
「ふふっ。私がご主人様を見ているのは、それがお仕事だからなの。」
「お仕事?」
「そう。私のお仕事。」
「じゃあーわたしもずっと母上様をみないとだめなの?」
「ふふっ。いいえ、貴方は見なくてもいいわ。私は貴方がとっても大事。だから私は貴方も見ているわ。」
「…じゃーわたしもエストを見てるね!」
「えっ?何故かしら?」
「わたし、エストのことがとっても好きだから…」
エストは、
いつものように、
目をなくして笑った。
わたしも同じように笑った。
それなのに、
なんでエストの赤い目から、
涙がこぼれたのだろう。
~ 3. Hate You ~
エストは、わたしにたくさんのことを教えてくれた。
食べ物のこと、
音楽のこと、
お祭りのこと、
とっても楽しい世界のこと、
とっても怖い世界のこと。
大人になってから必要になるかもしれないからと言って、
弓矢の使い方も教えてくれた。
エストは、わたしに沢山のものをくれた。
くすねてきた甘いリンゴ、
木の実で作った素敵なネックレス、
丈夫な弓、
そして、
感情。
エストは、わたしが何か失敗した時、わたしによく言っていた。
「私達はずっと一緒にいるのよ。私は貴方を守るわ。だから大丈夫よ。」
エストといると、柔らかい。
エストといると、暖かい。
わたしは、エストを本当の母親のように慕った。
わたしは、エストを本当の母親だと思った。
私には、エストしか、いなかった。
私には、エストがいれば、それだけでよかった。
…
激しい雨が降っている。
たまになる雷が怖い。
エストは、わたしが雷が怖いことを知っているから、
わたしの分の仕事もかわりにしてくれている。
ドンドンドン!!
奴隷部屋の戸が荒々しく叩かれる。
私はびくっとなって、小さくなる。
「誰かいるか!」
「…」
どうやら、王国軍の軍師様のようだ。
ご主人様とお仕事の話をするためによくこの屋敷を訪れる。
「誰もおらぬのか?!」
「はい。軍師様。」
「おぉ、お前か。お前しかおらぬか?」
「はい。皆は仕事についております。」
「うーん…仕方あるまい。ちと掃除を頼みたくてな。」
「どこのお部屋でしょうか?」
「うむ。お前の母上様のお部屋だ。凄く汚れてしまった。」
「あの…母上様に何か…?」
「いやいや!母上様は無事だ。」
「そうですか。」
「んー。しかしなぁ。まだ幼いお前には…いや、しかしな…」
「…あ、あの。軍師様、お仕事であればお申し付けください。」
「そ、そうか。わかった。急いで麻袋とモップと水を持って母上様の部屋に行ってくれ。」
「はい。承知致しました。」
…
母上様の部屋に入る。
部屋が薄暗い、ロウソクに火が灯っていない。
何かの匂いでむせ返る。
調理場で嗅ぐ、あの匂い。
わたしの嫌いな、あの匂い。
目の前のベッドの隅に、影が揺れている。
雷の光で、一瞬照らされた影。
母上様がベッドの隅に腰掛けている。
黒いドレスを着ているいつもの母上様。
いつもと同じなのに、
何かがいつもと違う。
「あぁ、貴方ね。掃除をお願い。部屋を元通りにしてちょうだい。」
「…は、はい。母上様。」
「ここにあるゴミは捨ててちょうだいね。私が着替えている間にね。」
「ゴミ…ですか?」
「えぇ、貴方の目の前にあるでしょ?」
窓の外が、一瞬明るくなる。
いつもなら、雷の光が目に入った瞬間に、
エストの影に隠れるわたし。
しかし、雷の光で照らされた室内にある、
目の前にあるものを見て、
わたしは、
動けなかった。
高級なカーペットに、
赤なのか黒なのか、
何かのシミが広がっている。
その中央に、
人らしき何かが横たわっている。
その人らしきものの足元から恐る恐る目を上げていく、
ほっそりとした足、
ほっそりとした腕。
そして、
身体から離れた、頭。
うっすらと開かれた目、
血に染った髪の毛。
理解出来ない状況に、
わたしは動くことが出来なかった。
それは、
ただ単に、
死体をみたからではない。
うっすらと開かれた目の奥に、
赤い瞳を、
わたしのことをいつでも見ていてくれた、
あの、
赤い瞳を、
見つけたからだ。
「あぁ、貴方、エストと仲が良かったわね。
ふふふ。貴方は知っていたかしら?
エストは、アルアリアのスパイだったのよ。
エルフの王、ソルヴィフが送り込んだの。
私を殺すために。
危うく殺される所だったわ。
まぁ、泳がせておいたのだけれど。
何かこちらに有利な情報でも持っているかもしれないからね。
結局ただの殺し屋だったようね。
ふふふ。
さぁ、私が着替える間に、そのゴミを片付けておきなさい。」
母上様が衣装部屋に行く後ろ姿を、
ただ見ていた。
何が起きたのか。
エストがスパイ?
母上様を殺そうと?
なぜエストはわたしに言わなかったの?
なぜ隠していたの?
…言ってくれれば一緒に上手くやれたかもしれないのに?
エストは殺された?
誰に?
母上様に?
わたしのエストが死んだ?
わたしのエストは死んだ?
わたしのエストは、
わたしのエストが、
わたしのエストだけが、
わたしの、私の、母だ。
外では雷鳴が轟いている。
私は走って奴隷部屋まで戻る。
この大雨、この雷鳴。
全ての音はかき消される。
奴隷部屋で、
エストから貰った弓矢を肩にかける。
幾らかの荷物も持って。
ご主人様の部屋に戻ると、
ご主人様は着替えを終えようとしていた。
何の疑いもなく、
こちらに背を向けている。
雷鳴の間隔は徐々に短くなっている。
嵐はすぐそこまできているのだろう。
エストが、
母が教えてくれたように、
獲物が逃げないように、
一撃で仕留めるために、
静かに、
力強く、
雷鳴が轟いた瞬間に、
弓を、
射る。
食べ物のこと、
音楽のこと、
お祭りのこと、
とっても楽しい世界のこと、
とっても怖い世界のこと。
大人になってから必要になるかもしれないからと言って、
弓矢の使い方も教えてくれた。
エストは、わたしに沢山のものをくれた。
くすねてきた甘いリンゴ、
木の実で作った素敵なネックレス、
丈夫な弓、
そして、
感情。
エストは、わたしが何か失敗した時、わたしによく言っていた。
「私達はずっと一緒にいるのよ。私は貴方を守るわ。だから大丈夫よ。」
エストといると、柔らかい。
エストといると、暖かい。
わたしは、エストを本当の母親のように慕った。
わたしは、エストを本当の母親だと思った。
私には、エストしか、いなかった。
私には、エストがいれば、それだけでよかった。
…
激しい雨が降っている。
たまになる雷が怖い。
エストは、わたしが雷が怖いことを知っているから、
わたしの分の仕事もかわりにしてくれている。
ドンドンドン!!
奴隷部屋の戸が荒々しく叩かれる。
私はびくっとなって、小さくなる。
「誰かいるか!」
「…」
どうやら、王国軍の軍師様のようだ。
ご主人様とお仕事の話をするためによくこの屋敷を訪れる。
「誰もおらぬのか?!」
「はい。軍師様。」
「おぉ、お前か。お前しかおらぬか?」
「はい。皆は仕事についております。」
「うーん…仕方あるまい。ちと掃除を頼みたくてな。」
「どこのお部屋でしょうか?」
「うむ。お前の母上様のお部屋だ。凄く汚れてしまった。」
「あの…母上様に何か…?」
「いやいや!母上様は無事だ。」
「そうですか。」
「んー。しかしなぁ。まだ幼いお前には…いや、しかしな…」
「…あ、あの。軍師様、お仕事であればお申し付けください。」
「そ、そうか。わかった。急いで麻袋とモップと水を持って母上様の部屋に行ってくれ。」
「はい。承知致しました。」
…
母上様の部屋に入る。
部屋が薄暗い、ロウソクに火が灯っていない。
何かの匂いでむせ返る。
調理場で嗅ぐ、あの匂い。
わたしの嫌いな、あの匂い。
目の前のベッドの隅に、影が揺れている。
雷の光で、一瞬照らされた影。
母上様がベッドの隅に腰掛けている。
黒いドレスを着ているいつもの母上様。
いつもと同じなのに、
何かがいつもと違う。
「あぁ、貴方ね。掃除をお願い。部屋を元通りにしてちょうだい。」
「…は、はい。母上様。」
「ここにあるゴミは捨ててちょうだいね。私が着替えている間にね。」
「ゴミ…ですか?」
「えぇ、貴方の目の前にあるでしょ?」
窓の外が、一瞬明るくなる。
いつもなら、雷の光が目に入った瞬間に、
エストの影に隠れるわたし。
しかし、雷の光で照らされた室内にある、
目の前にあるものを見て、
わたしは、
動けなかった。
高級なカーペットに、
赤なのか黒なのか、
何かのシミが広がっている。
その中央に、
人らしき何かが横たわっている。
その人らしきものの足元から恐る恐る目を上げていく、
ほっそりとした足、
ほっそりとした腕。
そして、
身体から離れた、頭。
うっすらと開かれた目、
血に染った髪の毛。
理解出来ない状況に、
わたしは動くことが出来なかった。
それは、
ただ単に、
死体をみたからではない。
うっすらと開かれた目の奥に、
赤い瞳を、
わたしのことをいつでも見ていてくれた、
あの、
赤い瞳を、
見つけたからだ。
「あぁ、貴方、エストと仲が良かったわね。
ふふふ。貴方は知っていたかしら?
エストは、アルアリアのスパイだったのよ。
エルフの王、ソルヴィフが送り込んだの。
私を殺すために。
危うく殺される所だったわ。
まぁ、泳がせておいたのだけれど。
何かこちらに有利な情報でも持っているかもしれないからね。
結局ただの殺し屋だったようね。
ふふふ。
さぁ、私が着替える間に、そのゴミを片付けておきなさい。」
母上様が衣装部屋に行く後ろ姿を、
ただ見ていた。
何が起きたのか。
エストがスパイ?
母上様を殺そうと?
なぜエストはわたしに言わなかったの?
なぜ隠していたの?
…言ってくれれば一緒に上手くやれたかもしれないのに?
エストは殺された?
誰に?
母上様に?
わたしのエストが死んだ?
わたしのエストは死んだ?
わたしのエストは、
わたしのエストが、
わたしのエストだけが、
わたしの、私の、母だ。
外では雷鳴が轟いている。
私は走って奴隷部屋まで戻る。
この大雨、この雷鳴。
全ての音はかき消される。
奴隷部屋で、
エストから貰った弓矢を肩にかける。
幾らかの荷物も持って。
ご主人様の部屋に戻ると、
ご主人様は着替えを終えようとしていた。
何の疑いもなく、
こちらに背を向けている。
雷鳴の間隔は徐々に短くなっている。
嵐はすぐそこまできているのだろう。
エストが、
母が教えてくれたように、
獲物が逃げないように、
一撃で仕留めるために、
静かに、
力強く、
雷鳴が轟いた瞬間に、
弓を、
射る。
~ 4. Love You ~
エストに近づくと、
目は少し開いていて、
私を優しく見つめていた。
エストの赤い、綺麗な目。
暖かい、柔らかい。
エストはいつかこんなことを言っていた。
「いい?私は貴方を裏切らないわ。でもね、貴方が危ない目に合うことはさせない。」
「危ない目?なに?」
「そうね。例えば、とっても大きなカエルが貴方の前に現れたら、とても怖いでしょ?」
「…う、うん…」
「そうなったら、私はカエルを持ち上げて、湖に向かって投げるわ。」
「で、でもとても大きいんでしょ?持ち上がるの?」
「持ち上がるわ。貴方を守るためなら、なんだって出来るのよ。力だって強くなるの。」
「じゃー、じゃー!わたしも一緒に投げる!」
「ふふふ。ありがと。でもね、もしかしたら、カエルに毒があるかもしれない。」
「…!」
「そうなったら、元も子もないわ。貴方を守れなくなってしまう。」
「…」
「大丈夫よ。私は貴方とずっと一緒なんだから。」
そう。
私は、エストと、母と、ずっと一緒なんだ。
母は、私に危険が及ばないよう、
自分のことを、
本当の仕事のことを黙っていたんだ。
私達は、ずっと一緒にいなきゃいけないんだ。
騙されたんじゃない。
守られたんだ。
私は、
エストの頭を持って、
この城から逃げ出した。
…
「い、一体どうなっているんだっ!!」
「は、はっ!軍師様!報告致します!
マリー女王様は、背後から矢を射られ、
お亡くなりになりましたっ!」
「そ、そ、そんな…誰が、一体誰が!」
「分かりません!しかし、首のない遺体があるのみで、なにがなんやら…」
「…娘…あの娘か…」
「ぐ、軍師様!」
「ん?」
「マリー女王様がお亡くなりになり、我が国は、トランブル王国はどうなってしまうのでしょうか…」
「…ふむ。考えてはいる。…あの国に頼むか…」
目は少し開いていて、
私を優しく見つめていた。
エストの赤い、綺麗な目。
暖かい、柔らかい。
エストはいつかこんなことを言っていた。
「いい?私は貴方を裏切らないわ。でもね、貴方が危ない目に合うことはさせない。」
「危ない目?なに?」
「そうね。例えば、とっても大きなカエルが貴方の前に現れたら、とても怖いでしょ?」
「…う、うん…」
「そうなったら、私はカエルを持ち上げて、湖に向かって投げるわ。」
「で、でもとても大きいんでしょ?持ち上がるの?」
「持ち上がるわ。貴方を守るためなら、なんだって出来るのよ。力だって強くなるの。」
「じゃー、じゃー!わたしも一緒に投げる!」
「ふふふ。ありがと。でもね、もしかしたら、カエルに毒があるかもしれない。」
「…!」
「そうなったら、元も子もないわ。貴方を守れなくなってしまう。」
「…」
「大丈夫よ。私は貴方とずっと一緒なんだから。」
そう。
私は、エストと、母と、ずっと一緒なんだ。
母は、私に危険が及ばないよう、
自分のことを、
本当の仕事のことを黙っていたんだ。
私達は、ずっと一緒にいなきゃいけないんだ。
騙されたんじゃない。
守られたんだ。
私は、
エストの頭を持って、
この城から逃げ出した。
…
「い、一体どうなっているんだっ!!」
「は、はっ!軍師様!報告致します!
マリー女王様は、背後から矢を射られ、
お亡くなりになりましたっ!」
「そ、そ、そんな…誰が、一体誰が!」
「分かりません!しかし、首のない遺体があるのみで、なにがなんやら…」
「…娘…あの娘か…」
「ぐ、軍師様!」
「ん?」
「マリー女王様がお亡くなりになり、我が国は、トランブル王国はどうなってしまうのでしょうか…」
「…ふむ。考えてはいる。…あの国に頼むか…」
~ 5. Love Me ~
どこをどのように逃げ出したのか、
記憶は曖昧だ。
何時間、
何日、
どこを、
どうやって。
でも、
ただ、
エストに導かれるように、
ある場所を探していた。
私は、エストと、母と常に一緒にいなければいけない。
母に聞いた、
怖い世界の話。
この世には、
死んだものを蘇らせることが出来るものがいると。
…
そこは、沼なのか、泥なのか、
とにかく気持ちの悪い場所だった。
母の頭を抱きしめて、
私は、小屋の扉をノックする。
「だだだ、誰かね?」
「…死者を蘇らせることが出来るのでしょう?」
「たたた、確かにできるが。お主は死者を蘇らせたいのかね?」
「…一緒にいられればそれでいい。」
「ほほう。ででで、では保存出来ればよいのか?」
「…話がしたい。」
「ううう、うむ。話だな。たたた、容易いことよ。」
「…でも記憶はいらない。ただ、話を。」
「ききき、記憶はいらぬと?」
「話が出来ればいい。」
「話。ししし、しかし、記憶がなければまともな話もできぬぞ?」
「…いいの。話はできる。私の中にいるから。」
「ふふふ、なるほど。では…?お主の母の目、これは凄いぞ。」
「…どういうこと?」
「とととと、特殊な目だ。これを利用すれば素晴らしい魔道具にすることもできるぞ。」
「…そう。ではお願い。」
「少し時間がかかるかもしれぬ。お主、オークであろう?」
「…」
「出来たら呼ぶ。お主、名前はなんと?」
「私は、私の名前は、ガダ。」
母は、
あの時の母は、
私の中にいる。
母の全ては、
私の中にある。
これからも、
ずっと。
記憶は曖昧だ。
何時間、
何日、
どこを、
どうやって。
でも、
ただ、
エストに導かれるように、
ある場所を探していた。
私は、エストと、母と常に一緒にいなければいけない。
母に聞いた、
怖い世界の話。
この世には、
死んだものを蘇らせることが出来るものがいると。
…
そこは、沼なのか、泥なのか、
とにかく気持ちの悪い場所だった。
母の頭を抱きしめて、
私は、小屋の扉をノックする。
「だだだ、誰かね?」
「…死者を蘇らせることが出来るのでしょう?」
「たたた、確かにできるが。お主は死者を蘇らせたいのかね?」
「…一緒にいられればそれでいい。」
「ほほう。ででで、では保存出来ればよいのか?」
「…話がしたい。」
「ううう、うむ。話だな。たたた、容易いことよ。」
「…でも記憶はいらない。ただ、話を。」
「ききき、記憶はいらぬと?」
「話が出来ればいい。」
「話。ししし、しかし、記憶がなければまともな話もできぬぞ?」
「…いいの。話はできる。私の中にいるから。」
「ふふふ、なるほど。では…?お主の母の目、これは凄いぞ。」
「…どういうこと?」
「とととと、特殊な目だ。これを利用すれば素晴らしい魔道具にすることもできるぞ。」
「…そう。ではお願い。」
「少し時間がかかるかもしれぬ。お主、オークであろう?」
「…」
「出来たら呼ぶ。お主、名前はなんと?」
「私は、私の名前は、ガダ。」
母は、
あの時の母は、
私の中にいる。
母の全ては、
私の中にある。
これからも、
ずっと。
~ Epilogue ~
「ご苦労さまね、ヴィンガ…随分久しぶりだけれど。」
「あ、アンタは…全てあんたの差し金だったのか…」
「生き別れの姉弟の再会の場としては好みではないけれど…」
「ヴィンガのお姉さんが、女王様?」
「あぁ、フォルク。オレも何度も耳を疑ったがな、我が血を分けた姉サマは、トランブル太守国のマリー女王閣下なんだそうだ…」
to be continued.
_________________________________
T.P.
「あ、アンタは…全てあんたの差し金だったのか…」
「生き別れの姉弟の再会の場としては好みではないけれど…」
「ヴィンガのお姉さんが、女王様?」
「あぁ、フォルク。オレも何度も耳を疑ったがな、我が血を分けた姉サマは、トランブル太守国のマリー女王閣下なんだそうだ…」
to be continued.
_________________________________
T.P.
コメント
26
四季(前科8犯)
ID: fkdfpjcdrzxt
>> 24
ありんす!
今度また他のも書く予定ですのでよかったら!
評判よければですけど…
この発言は削除されました(2019/05/11 03:00) 27
28
四季(前科8犯)
ID: fkdfpjcdrzxt
>> 27
デビューできない(*´▽`*)
掘り下げると話として映画作れるんじゃないかってくらい濃厚な幼少期…
1番妄想しやすいキャラでしたね、ガダもってないけど。
初めて皆に読んでほしいなって日誌がかけましたm(*_ _)m