(注・イツキ、アカリ、ミサクラがキャラバンにいます)
「ガウ!アレ、サクラか?」
「いえ、ガオ様、あれは梅にございましょう。」
キャラバンの廊下の一角。窓を覗いているガオと、その友人にして従者であるモーリシャスがなにやら話しこんでいる。最近は故郷のイエ島にも行けないからか…2人(否、1人と1羽と言うべきか)は、のんびりと過ごしているようだ。
___斯く言う彼、真田幸村も、ここの所は戦闘にも駆り出されず、どこか暇を持て余していた。
少し前までは、異世界やワコクの文化についての知識を求めて尋ねてくる者もいたのだが…
そういった用事も最近はめっきりである。
と、幸村もガオのいる窓辺に立ち寄る。
確か今は、「れべりんぐ」なるもの(練度上げのことらしい)のために、竹林に留まって居るはずだ。
武人なれど、時には多少の教養を求められるのが戦国武将というもの。
竹に梅とくれば、そばへ寄って一見したいと思うのである。
「…なるほど。斯様に見事な枝ぶりならば、桜のように見えるかもしれぬな」
堂々たるその姿、野趣であるが、おそらくは人の手で巧く剪定されているのだろう。
窓越し、一面の竹林の中でも存在感のある大木に、薄紅の梅が咲いていた。
「フーリュウ、だな!」
どこかおぼつかない調子でガオが言う。
年端もいかない子供特有の、覚えたての言葉を使ってみたといった風の言い方に、モーリシャスと幸村の頬も自然と綻ぶ。
「左様にございますな」
「タケとウメ、フーリュウ!」
「ほう、ガオ殿は風流の分かる御方だ」
幸村に揶揄うつもりは無い。知識がなくともこうして言い当てたガオを、純粋に聡いと思ったのだ。
「竹、梅の揃いも風流なれど、これに松を加えると…松竹梅といって、益々好いものぞ」
「歳寒三友、か?ワコクにも伝わってるんだな」
はて、足音もなく近づくような者は、このキャラバンの中でも少ない。
見ると声の片方は筋斗雲に乗ったゴクウ、もう片方はいつもの座布団に座しているイツキだ。
「よく雅を学んでおるのう。よしよし」
イツキはそう言って、己の子孫にして弟子のような存在であるガオを褒めてやる。
鏡の封印を担う当代とはいえ、ガオも子供。撫でてもらってご満悦のようだ。
「松竹梅、か…」
そういえば松の木はイアルで見ていない気がする。
ところで、と話題を返す。
「ハッカイ殿は未だ見つからぬのか」
そう言うと、ゴクウが苦い顔をする。
「ああ、ここらには居ねぇなぁ。ゴジョウは粘ってるみたいだけど、俺はちょっくら休憩よ。でもそろそろ戻らなきゃ叱られるか…」
「ゴクウ、シゴト。でも行きたくない、か?」
「おう、まぁな…」
「じゃあ、ガオとフーリュウ、ベンキョーしよう!
ベンキョーとシゴト、おんなじ。エラい!
いっしょにショウチクバイ、ベンキョーする!ゴクウ、シゴトない!」
拙い言葉だが、子供は勉強が仕事だ、と誰かに教わったのだろうか。面白い提案である。
何にしろゴクウにとってはいい息抜きの口実だ。
「キキキっ、そうだな!じゃあ取り敢えずひと枝もらって来るか!」
「うん!」
ガオが答えるや否や、ゴクウは文字通りすっ飛んで行ってしまった。
ガオも慌てて後を追いかける。
慌ただしい2人を見送って、残された幸村、モーリシャス、イツキの間に一瞬、沈黙が流れる。
「…幸村殿、こうしてお話しするのは初めてにございまするな」
「は、お名前は伺っていましたが」
一応同郷らしき縁はあれど、なんの偶然か今日まで両名が話すことはなかった。
「…ガオ様、雅桜様は先の夏に、ご自分のお名前が桜に由来することをご存じになられ申した。
それゆえ桜を見る日を心待ちになされているのでございまする」
「__ああ」
先程、ガオが梅と桜を間違えた理由か。
子供だからと幸村は思ったのだが、そういう所以もあったのか。
イツキも相槌をうつ。
「そろそろ河津桜の時期じゃからの。見つけたら花見をすると約束してからというもの、窓に釘付けじゃったわ」
確かに早咲きのものなら、花見の約束をする時期かもしれない。
…と、ここで早くもゴクウ達が戻ってきた。
ガオが幾らかずつの梅、竹を持ち、ゴクウはどこから貰ってきたのか、花瓶を抱えている。
イツキに習ってハサミをとり、皆でああでもない、こうでもないと言い合いながら、竹と梅とを生けていると、ゴジョウが通りすがった。見つかったゴクウがしまった、という顔をする。
「げ」
「げ、とは何やげとは。ハッカイも探しに行かんと、こんなとこにおったんか。
…すんません。みなさん方、うちのがお邪魔しとったようで……」
「ウガ…ゴクウ、ベンキョーしてた。ガオ、さそった。
…ゴメンなさい」
流石にゴクウが咎められるのは気になるのか、ガオがゴジョウとゴクウの間に割って入る。
「勉強?」
「そうじゃ、ガオに雅なものを学ばせようと思うての。通りがかり皆でこうして、梅と竹を生けていたところよ。休憩がてらゴクウにも手伝ってもらっていたのじゃ。」
先程まで"勉強"をノリノリで指導していたイツキも加勢に入る。
それでゴジョウもどうやら矛を収めてくれたようだった。
「まあ…そういう事でしたら。参考になるか分かりませんが、これ、貰いもんでよろしければ。
足しにしてください」
と、ゴジョウの袖の下から出てきたそれに、ガオとゴクウが飛びつく。
「「モモだ!!」」
「まだ2月なのに桃の実とは珍しい。探せば花もある頃では?」
モーリシャスも目が輝いているのを抑えられていない。
___こうして、花を生けるのが終わったら、室内で桃をアテに花見にしよう、という目標もでき、"勉強会"は益々盛り上がったのだった。
____その後、今度は"課外授業"と題してめいめい桃の花を探しに行ったのは、また別の話。
#
桜は血に咲くのだと、ありふれた怪談話を聞いたのは、2月の頃だったか。
私は嘘だ、といって、そこの角に植わっていた木を指した。
「桜よりよほど、血を欲しているようにみえるでしょう?」
黒い死者の腕をのばして、赤い指先で手招く、紅梅の木だった。
…そんなことを思い出して、くすりと笑う。
その間にも、彼女に切り捨てられたものたちの血が、まるで花弁のように舞い散っていく。
御桜。彼女の名もまた、春を告げる花のそれである。
多数の分身を操る彼女の援護をするのは、季節外れのサンタクロース達。
「スネグーラチカ!そっちは任せたわよ!」
「はい、お姉ちゃん!…サンタクロースはいつでも、子供たちの味方なのです!えーいッ!」
そして、ワコクより来たる武人ハッタンである。
「皆の者、もうひと踏ん張りだ!ガオ殿のため、盛大な花見のため、ここらの獣どもを一掃するぞ!」
こうして地上では、斧やら酒やら雪に血飛沫と、めいめい入り乱れていた。
さて、更に遥か上空には、円盤に乗ったアバフェロとアカリがいる。
「その、アバフェロ…さん。お花見の場所取りも大変ですね」
去年の七夕にアチ村で出会った2人だが、色々あって今はギクシャクしている。
見かねたキャラバンの、特に女性陣が2人をこうして近づけようと画策しているのだが、未だ上手くいっていないようである。
「___ああ。ソウだな」
「でも、綺麗ですね。桜って、空から見るとこんなに素敵なんだ……」
ここにいる全員は、花見の場所取りのためにビーストの間引きをする、という仕事を任されているが、桜に見とれるアカリをアバフェロがたしなめることはない。
いや、むしろ彼女の笑顔を目を細めて見ているようだ。
……ただ、そんな上空の様子を知る者はここにはいないのだった。
おしまい。
梅桃桜が出てくる雅な話がやりたかったのです。
コメント
1
キングベル
ID: hcc46qssbhf7
読み応えありましたー!
イベが終わった後のイベヒーロー達がキャラバンでのんびり暮らしている感じが良かったです\(^o^)/
2
アオバ
ID: zq5m33ggwx2z
>> 1
うわああ!コメントありがとうございます!!
しかもイベヒーロー出してたの気づいてくださった!
正直長文自信なかったので、いいねもコメもとても嬉しいです(´∀`*)