ボグス「おうい、パンキチ。ちょいと頼みてぇことがあるんだが」
アメリア「なんですか? 私のパンがご入用ですか? なーんて」
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「そうだよ」
「ええっ!?」
「ええって、なんで驚いてるんだよ。パン屋だろお前」
「いえ、その。ええと、ご注文は?」
「パンだよ。ただし、パンはパンでも食べられないパンだ」
「……? フライパンですか?」
「なんでだよ。金物屋じゃなくてパン屋だろお前。いや、ラスベルグでウワサを聞いたんだよ。あまりの硬さに歯も立たねぇガチガチのパンを売ってたって」
「あ、あはは……。いや、昔は私も未熟だったというか」
「いやいや、たいしたもんだぜ。どうやったらそんなに硬ぇパンを作れるんだ?」
「そうですね。今は私も一端のパン職人ですから、敢えて硬くするなら、材料を変えたり、発酵を抑えたり、窯に水蒸気を満たしたり、いろいろと考えられますね」
「一丁、歯が立たねぇほど硬ぇパンを作ってくれよ」
「オークの皆さんの味覚だと、そちらが合うのでしょうか。わかりました、ちょっと恥ずかしい思い出もありますが、全力で挑戦してきます!」
「できました! はい!」
「おう、ありがとよ。なるほど、これなら釘も打てそうだ」
「さすがにそれは言い過ぎですよ。冷めないうちにどうぞ」
「いや、喰うのは後だ」
「えっ? お弁当ですか?」
「いや、マルマがな? パンはパンでも食べられないパンはなんだとか聞いてくるから、実物を喰らわせてやろうと思ってな」
「……。それ、フライパンのことだと思います」
「なんでだよ。フライパンはパンじゃねぇだろうが」
「はぁ……。もういいです。一応聞きますが、そのパン、食べるんですよね?」
「それは後でな。斧の試し切りに使ってからだ」
「どうしてですかっ!?」
「うぉっ、でけぇ声出すなよ、非常識な奴だな」
「ボグスさんに常識を語られたくないです……なんでパンで斧の試し切りなんて」
「へっへっへ。ゾネリの奴が、人間の体で一番堅ぇのは歯だって言うんだよ。つまり歯が立たないほど堅ぇパンがぶった切れれば、人間も確実にぶった切れるわけだろ?」
「歯が立たないのは歯の固さではなくアゴの力の問題で……いえ、好きにしてくださいよ、もう……」
「信じられねぇぜ……ざっくりぶった切るつもりだったのに」
「斧が当たった音が『カキーンッ!!』でしたね……。飛んでいって見えなくなりましたし」
「マルマも目を丸くしてやがったな。パンキチ、いやパンの神様よ。防具でも作った方がいいんじゃねぇか? いざってときは食べられる兜とか画期的だぜ。つーかあれ本当に食えるんかな」
「私は防具屋じゃありません! パン屋ですっ」
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