むぐの旅日誌

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ウサギの留守番


むかしむかし、あるところに、臆病な黒ウサギがおりました。

黒ウサギは日課をこなしながら、あてもなくイアルを旅して過ごしていました。



この世界にも慣れてきた頃。

とあるお部屋にしのび込むようになりました。

いつも一瞬で満員になる、オオカミさんのお部屋です。


お部屋の中には、強い人がひしめいていました。


ここでは、働きようが数字として表れるのでした。
 
場違いでないか、足手まといでないか。
 
黒ウサギは恐々しながら、必死にボス戦をこなしました。



一方で、毎晩勝手にお邪魔しているのは決まりが悪く、

黒ウサギは、オオカミさんをこっそり避けるようになります。

近寄らない。

外で鉢合わせればチャンネルを変える。

なにせ相手は雲の上の存在。

視界に入るのも怖かったのです。



ある日、黒ウサギは、たまたまオオカミさんと同じ方向に進んでしまいました。


そこで目にしたものは、ひとりで中ボスを倒して周る、部屋主の姿でした。



その日から、黒ウサギはボス戦よりも中ボスを楽しむようになりました。



あるとき、ちょうど全開放を終えた頃。

オオカミさんから、赤いことばが届きました。

背景と一体化していたつもりの黒ウサギは飛び上がります。

ひらいて見れば、日頃のお礼のことばでした。



それからは、ますますお部屋で過ごす時間が楽しくなりました。



いつからか、入ってすぐに呼ばれるようになり、

そのうちに、入る前に組むようになっていきました。


黒ウサギと、もうひとりの凍結姫は、

誰に言われるでもなく、決まった時間を空けるようになりました。


決まった時間以外はまったく会わない、別々の3人でした。

なんの約束もしませんでした。

けれども、時間になるとかならず集う3人でした。



黒ウサギはどこまでも臆病でした。

新しい難易度に降り立っては足がすくみ、

新しい環境に身を置いては震える日々。

しかしオオカミさんは、怖いを楽しいに変える天才でした。

凍結姫は、黒ウサギにとってお布団のような存在でした。

ひとりでは到底足を踏み出せない場所に、

黒ウサギは幾度も連れて行ってもらいました。


3人で南の島にも行きました。

変な色のウニもたくさん食べました。

どんどん新しいことに挑戦しては失敗を重ね、達成し、

精度を上げ、楽しいを共有していきました。



何百回と背を預け戦ううちに芽生えたのは、全幅の信頼でした。



黒ウサギは、2人になら何でも素直に話すようになっていました。

時には格好悪い本音も洩らしました。

それが裏目に出たことは、一度もありませんでした。


緊張で脱兎したくなるような一発勝負も、

どちらかと一緒なら、目を閉じていても負ける気がしませんでした。




やがて、黒ウサギはひとつのことを恐れるようになります。


それは、この居場所を失ってしまうことでした。





年の瀬になり、オオカミさんはイアルを留守にすることが多くなりました。


黒ウサギがそこと向き合ったのは、21時の座が2日連続で空いたときのことでした。




初めて代わりに掲げた定時部屋の旗。


それは、重く肩にのしかかりました。


毛皮を被っておどけて誤魔化しました。

うまく出来なかった日もありました。

人知れず何度も膝を折りました。


それでも、やめることはありませんでした。


恐れていることは、まだ起こっていなかったからです。



オオカミさんの不在は、やむを得ない事情でした。

凍結姫は、ずっとそばにいてくれました。

緑のことばは、いつも黒ウサギを元気づけてくれました。

往年の常連さんも、変わらず足を運んでくれました。

そればかりか、黒ウサギのお友達も見かけるようになっていました。


掲げた旗は、たくさんの人に支えられていました。





黒ウサギは今日も留守を預かります。


また3人でやりたい。

それだけを胸に、部屋主の帰還を待ちながら。 


むぐ

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