リドミラ「妹……？　私が、この小さな生き物の妹ですか」
パダノア「そうですよ。キャラバンの方々は家族同然ですもの。第二の生を受けたあなたもまた、私の娘みたいなものですからね」
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「困りました。私の母親は一応あの不道徳の権化ということになっているのですが」
「あら、ヴェロニカの許可なら取ってありますよ」
「えっ」
「『せっかくだしあの娘にいろいろ教えてあげてくれるかしら？　主に家事とか』なんて言われました。……ほらほら、そんなに怖い顔をしないで」
「顔が怖いのはゾンビなのでご容赦ください。……ええ、それではパダノア様、リコ様、不束者ですが、改めてよろしくお願いいたします」
「はい、よろしくね♪　リドミラちゃん。さ、リコちゃんを抱いてみて。……うん、上手上手。よかったねーリコちゃん、妹ができましたよー」
「この状況で妹と言われることに違和感をぬぐえません。というか、私のような者が抱いて、リコ様に悪影響がないでしょうか」
「つまらないことを気にしないの。リドミラちゃんなんて単に一度死んで復活しただけでしょう。それよりも遥かにワケのワカラナイ存在がここにはたくさんいるんですから」
「言われてみればおっしゃる通りですが。パダノア様は大物ですね」

「ではリドミラちゃんにはこのまま子守を勉強してもらいますね」
「……それはお母様が決して要求しない類の家事ですね……」
「不満？」
「いいえ全く。むしろ痛快ですので是非教えてください」
「そんな捻くれたことを言っていると、ヴェロニカは却って喜びますよ？」
「……真剣に気を付けます。あら、何やらリコ様が泣き出しました。何かご不満なのでしょうか」
「もう夕方ですね。この時間、赤ちゃんは疲れが出てしまうものですから心配しなくても大丈夫ですよ。母親が不安を感じたりすると子供にもその気持ちが伝染しますからね」
「そうですか。会話ができないというのは不便なものです」
「赤ちゃんにとっては泣くのが会話の代わり。ぎゅっと強めに抱いてあげたり、唄を歌ってあげたりして答えてあげてください」
「なんだか本格的に母親教室ですね。では一つ芸をお見せいたします。リコ様、ご覧ください。はい、手首が取れてしまいましたー」
「ちょっ！？」
「はい、元通りー。……どうやら気に入っていただけたようですね」
「すごく面白いけど、真似だけはさせないでくださいね……」
「続きまして、あちらのスケルトンが捧げ持つゾンビヘッドをご覧ください。にらめっこをいたしましょうリコ様、あっぷっぷー」
「目が！　舌が、あらぬ方向に、飛び出っ！？」
「どうやら機嫌をお直しいただけたようです。……いかがいたしましたかパダノア様」
「い、いえ、ちょっと戦慄しました。リドミラちゃん、あなたはひょっとしたら子守の天才かもしれません」
「そうですか。悪趣味で申し訳ありません」
「そんなことは言っていません。さ、次はおむつの替え方を教えますね」
「あ、まだ続けるのですか」
「ええ。せっかくなのでリドミラちゃんには子守マスターになってもらいましょう。ちょっとしたことでは動じないし、私も見ていて安心です。それで、できたら明日、1時間ほどリコちゃんをお預けしたいのですが」
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「おかえりなさいませ、パダノア様」
「ただいま、リドミラちゃん、リコちゃん、いい子にしていましたか？」
「問題ありません。パダノア様こそ、血塗れではありませんか」
「本当に動じませんね。ええ、大丈夫ですよ、全て返り血ですから」
「何をなさっていたのかはお聞きしない方がいいのでしょうね」
「ちょっと昔の……いえ、ナンパですよ、ナンパ」
「そうですか。ナンパというのが何なのかは存じあげませんが何やら激しい戦いだったのですね。ではリコ様を、とその前にお風呂にでも入ってこられては如何でしょうか」
「大丈夫ですよー。毎日ママと一緒に血煙を浴びているんですから。ねーリコちゃん？」
「……はい。私によるリコ様への悪影響など考えていた自分が恥ずかしいです。妹として後塵を拝するのも宜なること、手遅れですね、きっと」

ルキオン