【タイトル:遠き世界の地にて~another side story~】
※このストーリーは、個人で想像して書いたものです。
キャラストの設定とは違うところがあるという前提でお楽しみください。
ep.1 -------------------- 序 --------------------
「フェン、派遣隊に選ばれたそうじゃねぇか」
木陰で一休みしているところに、声をかけられた。
背後からの声の主は、同期で隊に入ったゴウだ。
人懐こい性格で、いつもつるんでいる友人でもある。
ここはリンシャという世界。
俺は今、モショウと呼ばれる軍事訓練施設にいる。
自衛や外部に戦いに行くための訓練をする場所だ。
「ああ・・・ゴウか。この前の派遣で"空き"ができたらしくてさ」
俺の名前はフェン。1か月ほど前からここに来ている。
戦いには向いていないと自分では思うのだが、いつでも調査や攻撃に加われるよう、
定期的に訓練に参加しなくてはいけないらしい。
しかし調査隊の任務が終われば、しばらくは時間が空くし家でゆっくり過ごせる。
あーぁ、子供も産まれたばかりだし、愛するハイダとも離れて1月か。
早く攻撃の任務終えて帰りたいなぁ。
「・・・なんだフェン、ハイダと子供のことが心配か?生まれたばかりだもんなぁ」
腐れ縁なだけあって、ことごとく見透かされてしまう。
「ここへ来て1ヶ月、子供の顔も産まれてすぐ見ただけだし早く家に帰りたいよ」
思わず口から本音が出てしまった。
「まぁ、そう言うな。任務から帰ってきたら家に戻れるんだろ?
今日は訓練が終わったらおごってやるよ、飲みにいこうぜ」
そう言うと、ゴウは足早に任務へと去っていった。
ep.2 -------------------- 謎の美味い食べ物 --------------------
夜、バルにて。
「チェリオ!」(乾杯の掛け声)(※1)
「くあー、訓練のあとのエールは染みわたるねぇ!」
バルは厳しい訓練の地にある、オアシスみたいなもんだ。
高い塀に囲まれていて外には出れない分、戦地からの食材や戦利品などが時々入ってくる。
それにありつけたときは、またとないご馳走だ。
「おいフェン。ちょっとこいつを食ってみな。エールにめちゃめちゃ合うぜ!」
ゴウがニヤニヤしながら、おもむろに皿を目の前に差し出す。
皿には揚げ物のような肉の小さな塊が山盛りになっている。
「なんだ肉の揚げ物かよ。この辺の肉なんて固くて筋張ってて美味くねぇって」
そう、このあたりは荒野で、仮に動物がいたとしてもやせ細っている。
しかも、生きるために雑食になるしかないので肉が臭いのだ。
「いいから食ってみろって。先日帰還したヤツが現地で狩ってきた肉だとよ。
特別に分けてもらった。内緒だぜ」
あまりに目を輝かせながら迫ってくるゴウを横目でみながら、しぶしぶ1つ口に放り込む。
口に入れた瞬間、サクッという音とともに口いっぱいに肉汁が溢れ出てきた。
「・・・んっっ!?なんだこりゃ!溶けそうなほど柔らかくて肉汁が滴るし、臭みも全く感じられない。
口に入れた瞬間の、なんともいえない繊細な風味。天国に行っちまいそうだ。」
フェンの反応に、とたんに得意な顔になるゴウ。
「な?うめぇだろ?こいつはニワトリっていう飛べない鳥なんだとよ。今度お前が行く"あっちの世界"に
ウジャウジャいるらしいぜ。まぁ、野生のせいでちぃと臭みがあるらしいが、ショウユとかいう調味料で消せるそうだ。」
「それにしても、衣もサクっと軽い食感で、こりゃエールがとまんねぇよ・・・」
口に広がる肉汁、今まで食べたことのない旨さに皿からどんどん減ってゆく。
「おい・・・フェン。俺がもらったんだ、ちゃんと俺のぶん残しておけよ。
なんでも、カラアゲとかいう名前の料理だとさ。俺たちには縁がないが、たっぷりの油で揚げる贅沢な食べ物。
祖先はあっちの世界で、しょっちゅう食えたらしいぜ」
ep.3 -------------------- 神話 --------------------
「祖先・・・か。神話の話だよな?"もともと俺たちの祖先は、あっちの世界で生活してた"ってやつだろ?」
ゴウもカラアゲを口にしながら続けた。
「そうさ。遥か昔、俺たちの祖先たる神々は"あっちの世界"での戦いに敗れ、この地に追いやられた。
俺たちは尖兵として情報と物資を持ち帰り、やがて来たる大戦争に備える。かつての故郷を取り戻すためにな」
「ゴウ、そんなの信じてるのか?俺たちは、あちらの世界の生き物からは俺たち"異形の姿"に見えるんだろ?
なんでもともと住んでいた俺達の姿が変わっちまうのさ。」
「そんなの俺に聞いたって分からねえよ、そういう言い伝えだからな。
だが、俺達と似た姿ではあるらしい。それが本当なら、かつて同じ種族同士が戦い、
負けたほうがこちらに来たとなれば、話は合わねぇか?
両方の世界は魔法によって隔離されていると聞く。
その隔離を通過するときに魔法のだか呪いだかわかんねぇが、違う姿に見えちまうみたいなよ」
神話では、太古にイアルで神々の戦いが起こり、勝者側の神がイアルへ残り、敗者側が邪神として時のかなたに追いやられたということになっている。
だが、もともと同じ世界に居たのなら、俺達とさほど変わらない姿・形のはずだ。
「調査・収集ってのは、ある程度時間があるんだろ?初めての派遣に不安はあるが、
こんなうまい肉がある世界、俺もちょっとナイショでハイダ達に持って帰ってやりたいぜ」
「バ、バカ、やめとけって。収集したものは全て倉庫へ運ばれる。見つかったら・・・」
言い出したゴウにすぐ返事を被せる。
「ハハハ、冗談。冗談だって。ちゃんと任務を遂行してくるさ」
ep.4 -------------------- 作戦伝達 --------------------
時は過ぎ、派遣当日。
「作戦の伝達を行う!総員集まるように!」
直接の上官であるパシエ指揮官より、派遣隊の招集が行われた。
今回の派遣の内容はこうだ。
派遣地 イアル
派遣開始時刻 イアル時間00:00
調査・活動時間 イアル時間11:59まで(※2)
活動内容 イアルの情報取得、エネルギー及び物資の調達
※エネルギーに関しては地面から吸い上げ、リンシャの貯蔵庫に転送する。
リンシャは資源が乏しく、外部から調達してこなければいけない。
すべてを強奪するわけではなく、豊富な資源から少し分けてもらうだけというのが名目だ。
イアル側からの魔術による空間隔離の効力は一定ではなく、強くなる時間と弱くなる時間で波があり、効力が最も弱まる時刻に高等魔術で時空を切り裂き、そこから拠点となる砦と射出口を形成。
送り込むための衝撃に耐える保護弾を生成後、保護弾に包まれ地上へ発射される。
この保護弾作成器をイアル側から見ると、恨めしく地上を見つめる目の形に見えるのだそうだ。
砦を含む軍の施設をイアルでは"エニグマ"とか呼ぶらしい。
この砦は、できたリンシャとの道が閉じないよう、回転しつづけなければならない。
エネルギー量は貯めたものに限りがあるため、動作は12時間(現地)が限界だという。
指揮官から、派遣地が発表されていく。
「フェン、お前の派遣地はローモンド湖 D-5だ。いいな?」
「イェッサー!」
「よし、みんな準備に入れ。よく聞け、この派遣には危険がともなう。
派遣の目的によっては、居住地内にも派遣されることがあるため、イアルでは
"自分たちに襲いかかってくる"黒い魔獣""として、レイド(討伐)が行われている。
もしパーティーに出くわしてしまったら、戦うしかない。くれぐれも注意しろ。
迎撃用の武器もそれぞれ用意されたものを持っていくように」(※3)
いよいよ出撃とはいえ、まだ訓練施設に来て1ヶ月。
属性追加訓練を受けていないため、何も属性のない状態での派遣だ。不安が残る。
ep.5 -------------------- 出撃 --------------------
「アーーーーーーーップーーーーデーーーーーーーーーーート!」(※4)
出撃時刻になり、魔術師たちの詠唱が場内に響きはじめる。
目の前では高等魔術師団が行う時空を切り裂く魔術により時空へ十字に切れ目が走り、
切れ目からイアルの景色が見え始める。
そして、十字の中心から黒い砦がイアルの空にみるみる形成されていく。
空間を切り裂く魔術、形成魔術、声を合わせるため高い集中力と精神力が求められる。
パシエ指揮官より派遣隊に号令が発せられる。
「総員、出撃用意!」
フェンも装備を身に着け、射出口の所定の位置についた。
足元から地上に筒状の紫と黒の混じった渦巻がみるみる伸びてゆく。
これが派遣地への道になるわけだ。
保護弾作成器が形成され、やがて体が光に包まれ始めた。
「出撃!!!!」
それぞれ保護弾で包まれた隊員達が、次々に地上へと発射された。
ep.6 ---------- イアルに降り立つ ----------
「くっ・・・」
高速で打ち出されたため、その加速度に歯を食いしばる。
ドーーーーーーーーン!
凄まじい轟音とともに、地面に叩きつけられた。
保護弾で包まれているとはいえ、かなりの衝撃だ。
「・・・ってー・・・・もうちょい、加減てもんを知らないのかよ」
渦巻も消え景色が見え始めたので、周りを見渡してみる。
「どうやらここは、道の行き止まり地点らしいな。
・・・へっ、しばらくは何も来なそうだし、エネルギーの収集が捗りそうだぜ。
ちぇっ、近くにはあのニワトリとかいう生き物は見あたらねぇよ。残念だな」
「テンタクル!」
エネルギー収集のための装置を地面に突き刺した。(※5)
イアルの大地にあるエネルギーや燃料などを吸い上げ、リンシャへと転送していく。
「おっと、これにも今のうちにエネルギーを入れておかないとな」
派遣の際には、身を守るために「バイオレーザー」と呼ばれるレーザー銃が与えられている。
内部にエネルギーを装填し、撃ち出すことができる。
さらに、相手を吹き飛ばすためのエナジーボンベも数個配布されていた。
ep.7 ---------- パーティーとの遭遇 ----------
「よーしよし、なかなか順調だ。予定のエネルギー量もあと少しか。」
任務時間も半分以上終わり、周りの景色も楽しめるようになってきた。
ちょうど紅葉のころ、色づいた木々が森や山を彩っていた。
「なかなかいいところだ。リンシャにはこんな綺麗な山は無いし空気も澄んでいる。
少し先には水があるみたいだな。帰りに何か居るか覗いてみるか」
「マジ、ジャマだって!」
いきなり背後から、かかと落としが入った。
「うおっ!・・・なんだよ痛ってぇな・・・?」
振り返ると、人型が6人近づいてきており、少し離れて家が乗った4本足のモノが立っている。
フェンに対して敵意があるのが、ひしひしと感じられる。
「こいつら・・・まさか討伐隊?砦(エニグマ)が居場所の目印になってしまったか!
くっそ・・・もう少しで任務が終わるってのによ!」(画面残り8分ほど)
ep.8 ---------- 戦い ----------
フェンは急いで、銃と槍を手にとった。
「食らいやがれ。バイオレーザー!」
強い光とともに、銃から高火力のレーザーが飛んでいく。
躱され、右から剣が振り下ろされてくる。
「わが剣、受け止めてみよ!」
すかさず槍の柄で受け止め、跳ね返す。
「テンタクル!」
武器へのエネルギー補充のため、残りの装置も地面に刺していく。
「手を貸すわ!」
右から1人、左から1人、次々に切りかかってきた。
槍を振り回し、剣を弾き返しながら応戦する。
離れた者は何かぶつぶつ言っているようだ。魔法の詠唱・・・?
「もえあがれ!」
次の瞬間、体に火の玉が燃え上がった。
「くっ・・・油断した・・・防御コア(※6)が1つ壊れちまった・・・
このやろぅ・・・こいつで吹っ飛びやがれ!!!」
エネルギーの貯まっていたエナジーボンベをパーティーの中心へと投げる。
地面に当たった瞬間爆発、近くに居た者は爆風とともに吹っ飛んでいった。
「こんなところで討伐なんてされて・・・たまるかよ・・・」
ep.9 ---------- 決死の覚悟 ----------
「回復します!」
ヒーラーらしき男が消耗したメンバーの体力を回復させている。
「風の力よ!」
「援護します!」
回復を待つ間、魔法攻撃が離れた場所からフェンに向けて放たれていく。
「ハァ・・・ハァ・・・こいつら全く体力が減ってく気がしねぇ・・・」
どのくらい時間が経ったのだろうか。
フェンの装甲も度重なる攻撃で痛み、コアも露出している。
「(このままじゃ装甲も長く持たねぇ)ボンベを連続で食らいやがれ!!!」
ドーーーーーーーーーーン!ドーーーーーーン!
激しい揺れと爆風がパーティーを襲う。
行き止まりの空間で爆発が続いたことで、崖も崩落するところが出てきている。
「・・・キメぇって!」
空中で爆風を避けていたのか、突然の反撃を食らう。
「くそっ・・・・こう数が居ちゃあ全部に意識が向けられねぇ」
コアもあと1個、守りきらなくてはいけない。
「あと2分ほどか・・・何とか耐えきれば砦に回収される
なんとしても倒されるわけにはいかねぇ・・・っ!」
「バイオレーザー!」
エネルギーの予定量はリンシャに転送済みだ。
残りの時間はエネルギーを武器に使える。
だが・・・
エナジーボンベは底を尽き、槍とバイオレーザーのみで
戦わなくてはいけない。
バイオレーザーは強力だが、充填に時間がかかるので
連続では使用できないのだ。
ep.10 ---------- 薄れゆく意識の中で ----------
離れたところに居た騎士が、剣を振りかざし駆け寄ってくる。
「わが剣こそが・・・闇を断つ!」
同時に、コアの近くに居た剣士も剣を構える。
「これで決めるわ!」
ザンッッッーーーーーー
2人の剣が同時にコアに入る。
コアを失ったフェンは、ゆっくり前のめりに倒れこんだ。
起き上がろうとするが、もうその余力は無い。
草を掴みながら、上目に睨みつける。
「こんなところで死ぬなんて・・・うそだろ・・・」
空を見上げると、エニグマの速度がだんだん落ち、薄く変化していっている。
「俺は・・・見捨てられるのか・・・」
そのまま仰向けになり、やがて意識が遠のいていった。
「せめて、最後にもう1度ハイダや子供と会いたかっ・・・」
フェンが息絶えたのを感知すると、機材は突然黒い煙と赤い炎を出し始めた。(※7)
フェンは機材とともに燃えていく。
討伐されたときのために、イアル側に機材や情報などが渡らないようにするためだ。
やがて何もかも燃やし尽くされ、炎が消えた跡には今までと変わらない景色が
ただ広がっているだけであった。
- fin.
-------------------- あとがき --------------------
毎日レイドボス攻略をやっているうちに、残り時間が足りずレイドボスの帰還を許すこともあります。
帰還していく魔獣を眺めながら「この魔獣、どこへ帰るんだろう。魔獣にも友達とか家族とかいるのかな」という思いが浮かんで、エニグマの向こうの世界を想像して書いてみました。
みんな好きなヒーローやビーストの絵・作品がほとんどなので、こういうの作る奴が居てもいいかなとw
さも当然のように入る唐揚げネタにも(笑)、クスッとくる人がいたら幸いです。
ざっくり言うと、バフン魔獣がイアルでヒーロー達に倒されるまでのストーリー。
魔獣側から見たイアルの世界を描いてみました。
実際の魔獣出現アニメーションや出現座標などを参考にしています。
なかなか文を練るのは難しいですね。
細かいとこをすっとばして、超ショートストーリーになってしまいました。
ヒーローは敢えて名前を出していないので、セリフから当ててみてください。
魔獣はいかにも強そうなのではなく、訓練1ヶ月くらいっぽいバフン魔獣をチョイスしました。
レイドに挑めるくらいのレベルになってきて最初に挑むのがバフン魔獣Lv.1のような気がするので、読み手に身近なノーマルバフン魔獣が主人公です。
拙い文ではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
-------------------- 登場人物(?) --------------------
名前は漢字の中国語読みから取っています。(一部加工あり)
・主人公 フェン(フン) バフン魔獣
・妻 ハイダ(ウニ) ウニ魔獣 バフンウニとか居るしねw
・同期 ゴウ(イヌ) イヌ魔獣 人懐こいイメージの犬で
・指揮官 パシエ(カニ) カニ魔獣 残ったので使いましたw
-------------------- その他の名前など --------------------
・モショウ(魔獣)
・リンシャ(零下)
イアルの中国語表記は音写の伊亞爾(イアアル)ですが、せっかく4周年のお祝い
なので、音が似ていてゲーム業界で1,2を争うゲームになってほしいという願い
を込めた数字のイーアル(1,2)の意味にしました。
行く先がイアルなので、反対側の世界はゼロの逆側(マイナス)という名前です。
(ゼロが時空の壁?)
-------------------- 補足 --------------------
※1 ストラスのワルチャを見る人には分かるw
(チェリオは乾杯や別れのときに言う言葉らしい)
偶然にも、乾杯と(友との最後の飲み)で両方の意味になりました。
※2 リアル1時間がイアル時間1日に相当するので、レイドボスの残り時間30分を
イアル時間の半日(12時間)に換算しました。
出撃時間は、実際の出現イアル時間です。
※3 レイドボスは自ら街を襲いに行かないで1つの場所に留まっているので、
ヒーローたちが討伐しに来るのを仕方なく迎撃するという設定にしました。
※4 天が切り裂かれるときの声は"アップデート"と聞こえるので、アップデート
にしました。(結構思い込みで色々に聞こえるので、正解が分からない)
出現時の"天を裂くエニグマ"で聞こえる歌は、リンシャ魔術団の高等魔術詠唱
の声だという設定です。
※5 イアル側からはバフン魔獣に見えるだけという仮定にしました。
地面から吸っている動きはエネルギー収集、バイオレーザーは銃、爆発は
エナジーボンベ、テンタクルは槍という感じに置き換えました。
コアは身を守るための装置という設定です。
殻は身にまとっている防具のイメージです。
※6 魔獣のコア(4個っぽい)
※7 討伐すると魔獣だけじゃなく周辺も燃えてるように見えるので、こんな描写にしました。
※このストーリーは、個人で想像して書いたものです。
キャラストの設定とは違うところがあるという前提でお楽しみください。
ep.1 -------------------- 序 --------------------
「フェン、派遣隊に選ばれたそうじゃねぇか」
木陰で一休みしているところに、声をかけられた。
背後からの声の主は、同期で隊に入ったゴウだ。
人懐こい性格で、いつもつるんでいる友人でもある。
ここはリンシャという世界。
俺は今、モショウと呼ばれる軍事訓練施設にいる。
自衛や外部に戦いに行くための訓練をする場所だ。
「ああ・・・ゴウか。この前の派遣で"空き"ができたらしくてさ」
俺の名前はフェン。1か月ほど前からここに来ている。
戦いには向いていないと自分では思うのだが、いつでも調査や攻撃に加われるよう、
定期的に訓練に参加しなくてはいけないらしい。
しかし調査隊の任務が終われば、しばらくは時間が空くし家でゆっくり過ごせる。
あーぁ、子供も産まれたばかりだし、愛するハイダとも離れて1月か。
早く攻撃の任務終えて帰りたいなぁ。
「・・・なんだフェン、ハイダと子供のことが心配か?生まれたばかりだもんなぁ」
腐れ縁なだけあって、ことごとく見透かされてしまう。
「ここへ来て1ヶ月、子供の顔も産まれてすぐ見ただけだし早く家に帰りたいよ」
思わず口から本音が出てしまった。
「まぁ、そう言うな。任務から帰ってきたら家に戻れるんだろ?
今日は訓練が終わったらおごってやるよ、飲みにいこうぜ」
そう言うと、ゴウは足早に任務へと去っていった。
ep.2 -------------------- 謎の美味い食べ物 --------------------
夜、バルにて。
「チェリオ!」(乾杯の掛け声)(※1)
「くあー、訓練のあとのエールは染みわたるねぇ!」
バルは厳しい訓練の地にある、オアシスみたいなもんだ。
高い塀に囲まれていて外には出れない分、戦地からの食材や戦利品などが時々入ってくる。
それにありつけたときは、またとないご馳走だ。
「おいフェン。ちょっとこいつを食ってみな。エールにめちゃめちゃ合うぜ!」
ゴウがニヤニヤしながら、おもむろに皿を目の前に差し出す。
皿には揚げ物のような肉の小さな塊が山盛りになっている。
「なんだ肉の揚げ物かよ。この辺の肉なんて固くて筋張ってて美味くねぇって」
そう、このあたりは荒野で、仮に動物がいたとしてもやせ細っている。
しかも、生きるために雑食になるしかないので肉が臭いのだ。
「いいから食ってみろって。先日帰還したヤツが現地で狩ってきた肉だとよ。
特別に分けてもらった。内緒だぜ」
あまりに目を輝かせながら迫ってくるゴウを横目でみながら、しぶしぶ1つ口に放り込む。
口に入れた瞬間、サクッという音とともに口いっぱいに肉汁が溢れ出てきた。
「・・・んっっ!?なんだこりゃ!溶けそうなほど柔らかくて肉汁が滴るし、臭みも全く感じられない。
口に入れた瞬間の、なんともいえない繊細な風味。天国に行っちまいそうだ。」
フェンの反応に、とたんに得意な顔になるゴウ。
「な?うめぇだろ?こいつはニワトリっていう飛べない鳥なんだとよ。今度お前が行く"あっちの世界"に
ウジャウジャいるらしいぜ。まぁ、野生のせいでちぃと臭みがあるらしいが、ショウユとかいう調味料で消せるそうだ。」
「それにしても、衣もサクっと軽い食感で、こりゃエールがとまんねぇよ・・・」
口に広がる肉汁、今まで食べたことのない旨さに皿からどんどん減ってゆく。
「おい・・・フェン。俺がもらったんだ、ちゃんと俺のぶん残しておけよ。
なんでも、カラアゲとかいう名前の料理だとさ。俺たちには縁がないが、たっぷりの油で揚げる贅沢な食べ物。
祖先はあっちの世界で、しょっちゅう食えたらしいぜ」
ep.3 -------------------- 神話 --------------------
「祖先・・・か。神話の話だよな?"もともと俺たちの祖先は、あっちの世界で生活してた"ってやつだろ?」
ゴウもカラアゲを口にしながら続けた。
「そうさ。遥か昔、俺たちの祖先たる神々は"あっちの世界"での戦いに敗れ、この地に追いやられた。
俺たちは尖兵として情報と物資を持ち帰り、やがて来たる大戦争に備える。かつての故郷を取り戻すためにな」
「ゴウ、そんなの信じてるのか?俺たちは、あちらの世界の生き物からは俺たち"異形の姿"に見えるんだろ?
なんでもともと住んでいた俺達の姿が変わっちまうのさ。」
「そんなの俺に聞いたって分からねえよ、そういう言い伝えだからな。
だが、俺達と似た姿ではあるらしい。それが本当なら、かつて同じ種族同士が戦い、
負けたほうがこちらに来たとなれば、話は合わねぇか?
両方の世界は魔法によって隔離されていると聞く。
その隔離を通過するときに魔法のだか呪いだかわかんねぇが、違う姿に見えちまうみたいなよ」
神話では、太古にイアルで神々の戦いが起こり、勝者側の神がイアルへ残り、敗者側が邪神として時のかなたに追いやられたということになっている。
だが、もともと同じ世界に居たのなら、俺達とさほど変わらない姿・形のはずだ。
「調査・収集ってのは、ある程度時間があるんだろ?初めての派遣に不安はあるが、
こんなうまい肉がある世界、俺もちょっとナイショでハイダ達に持って帰ってやりたいぜ」
「バ、バカ、やめとけって。収集したものは全て倉庫へ運ばれる。見つかったら・・・」
言い出したゴウにすぐ返事を被せる。
「ハハハ、冗談。冗談だって。ちゃんと任務を遂行してくるさ」
ep.4 -------------------- 作戦伝達 --------------------
時は過ぎ、派遣当日。
「作戦の伝達を行う!総員集まるように!」
直接の上官であるパシエ指揮官より、派遣隊の招集が行われた。
今回の派遣の内容はこうだ。
派遣地 イアル
派遣開始時刻 イアル時間00:00
調査・活動時間 イアル時間11:59まで(※2)
活動内容 イアルの情報取得、エネルギー及び物資の調達
※エネルギーに関しては地面から吸い上げ、リンシャの貯蔵庫に転送する。
リンシャは資源が乏しく、外部から調達してこなければいけない。
すべてを強奪するわけではなく、豊富な資源から少し分けてもらうだけというのが名目だ。
イアル側からの魔術による空間隔離の効力は一定ではなく、強くなる時間と弱くなる時間で波があり、効力が最も弱まる時刻に高等魔術で時空を切り裂き、そこから拠点となる砦と射出口を形成。
送り込むための衝撃に耐える保護弾を生成後、保護弾に包まれ地上へ発射される。
この保護弾作成器をイアル側から見ると、恨めしく地上を見つめる目の形に見えるのだそうだ。
砦を含む軍の施設をイアルでは"エニグマ"とか呼ぶらしい。
この砦は、できたリンシャとの道が閉じないよう、回転しつづけなければならない。
エネルギー量は貯めたものに限りがあるため、動作は12時間(現地)が限界だという。
指揮官から、派遣地が発表されていく。
「フェン、お前の派遣地はローモンド湖 D-5だ。いいな?」
「イェッサー!」
「よし、みんな準備に入れ。よく聞け、この派遣には危険がともなう。
派遣の目的によっては、居住地内にも派遣されることがあるため、イアルでは
"自分たちに襲いかかってくる"黒い魔獣""として、レイド(討伐)が行われている。
もしパーティーに出くわしてしまったら、戦うしかない。くれぐれも注意しろ。
迎撃用の武器もそれぞれ用意されたものを持っていくように」(※3)
いよいよ出撃とはいえ、まだ訓練施設に来て1ヶ月。
属性追加訓練を受けていないため、何も属性のない状態での派遣だ。不安が残る。
ep.5 -------------------- 出撃 --------------------
「アーーーーーーーップーーーーデーーーーーーーーーーート!」(※4)
出撃時刻になり、魔術師たちの詠唱が場内に響きはじめる。
目の前では高等魔術師団が行う時空を切り裂く魔術により時空へ十字に切れ目が走り、
切れ目からイアルの景色が見え始める。
そして、十字の中心から黒い砦がイアルの空にみるみる形成されていく。
空間を切り裂く魔術、形成魔術、声を合わせるため高い集中力と精神力が求められる。
パシエ指揮官より派遣隊に号令が発せられる。
「総員、出撃用意!」
フェンも装備を身に着け、射出口の所定の位置についた。
足元から地上に筒状の紫と黒の混じった渦巻がみるみる伸びてゆく。
これが派遣地への道になるわけだ。
保護弾作成器が形成され、やがて体が光に包まれ始めた。
「出撃!!!!」
それぞれ保護弾で包まれた隊員達が、次々に地上へと発射された。
ep.6 ---------- イアルに降り立つ ----------
「くっ・・・」
高速で打ち出されたため、その加速度に歯を食いしばる。
ドーーーーーーーーン!
凄まじい轟音とともに、地面に叩きつけられた。
保護弾で包まれているとはいえ、かなりの衝撃だ。
「・・・ってー・・・・もうちょい、加減てもんを知らないのかよ」
渦巻も消え景色が見え始めたので、周りを見渡してみる。
「どうやらここは、道の行き止まり地点らしいな。
・・・へっ、しばらくは何も来なそうだし、エネルギーの収集が捗りそうだぜ。
ちぇっ、近くにはあのニワトリとかいう生き物は見あたらねぇよ。残念だな」
「テンタクル!」
エネルギー収集のための装置を地面に突き刺した。(※5)
イアルの大地にあるエネルギーや燃料などを吸い上げ、リンシャへと転送していく。
「おっと、これにも今のうちにエネルギーを入れておかないとな」
派遣の際には、身を守るために「バイオレーザー」と呼ばれるレーザー銃が与えられている。
内部にエネルギーを装填し、撃ち出すことができる。
さらに、相手を吹き飛ばすためのエナジーボンベも数個配布されていた。
ep.7 ---------- パーティーとの遭遇 ----------
「よーしよし、なかなか順調だ。予定のエネルギー量もあと少しか。」
任務時間も半分以上終わり、周りの景色も楽しめるようになってきた。
ちょうど紅葉のころ、色づいた木々が森や山を彩っていた。
「なかなかいいところだ。リンシャにはこんな綺麗な山は無いし空気も澄んでいる。
少し先には水があるみたいだな。帰りに何か居るか覗いてみるか」
「マジ、ジャマだって!」
いきなり背後から、かかと落としが入った。
「うおっ!・・・なんだよ痛ってぇな・・・?」
振り返ると、人型が6人近づいてきており、少し離れて家が乗った4本足のモノが立っている。
フェンに対して敵意があるのが、ひしひしと感じられる。
「こいつら・・・まさか討伐隊?砦(エニグマ)が居場所の目印になってしまったか!
くっそ・・・もう少しで任務が終わるってのによ!」(画面残り8分ほど)
ep.8 ---------- 戦い ----------
フェンは急いで、銃と槍を手にとった。
「食らいやがれ。バイオレーザー!」
強い光とともに、銃から高火力のレーザーが飛んでいく。
躱され、右から剣が振り下ろされてくる。
「わが剣、受け止めてみよ!」
すかさず槍の柄で受け止め、跳ね返す。
「テンタクル!」
武器へのエネルギー補充のため、残りの装置も地面に刺していく。
「手を貸すわ!」
右から1人、左から1人、次々に切りかかってきた。
槍を振り回し、剣を弾き返しながら応戦する。
離れた者は何かぶつぶつ言っているようだ。魔法の詠唱・・・?
「もえあがれ!」
次の瞬間、体に火の玉が燃え上がった。
「くっ・・・油断した・・・防御コア(※6)が1つ壊れちまった・・・
このやろぅ・・・こいつで吹っ飛びやがれ!!!」
エネルギーの貯まっていたエナジーボンベをパーティーの中心へと投げる。
地面に当たった瞬間爆発、近くに居た者は爆風とともに吹っ飛んでいった。
「こんなところで討伐なんてされて・・・たまるかよ・・・」
ep.9 ---------- 決死の覚悟 ----------
「回復します!」
ヒーラーらしき男が消耗したメンバーの体力を回復させている。
「風の力よ!」
「援護します!」
回復を待つ間、魔法攻撃が離れた場所からフェンに向けて放たれていく。
「ハァ・・・ハァ・・・こいつら全く体力が減ってく気がしねぇ・・・」
どのくらい時間が経ったのだろうか。
フェンの装甲も度重なる攻撃で痛み、コアも露出している。
「(このままじゃ装甲も長く持たねぇ)ボンベを連続で食らいやがれ!!!」
ドーーーーーーーーーーン!ドーーーーーーン!
激しい揺れと爆風がパーティーを襲う。
行き止まりの空間で爆発が続いたことで、崖も崩落するところが出てきている。
「・・・キメぇって!」
空中で爆風を避けていたのか、突然の反撃を食らう。
「くそっ・・・・こう数が居ちゃあ全部に意識が向けられねぇ」
コアもあと1個、守りきらなくてはいけない。
「あと2分ほどか・・・何とか耐えきれば砦に回収される
なんとしても倒されるわけにはいかねぇ・・・っ!」
「バイオレーザー!」
エネルギーの予定量はリンシャに転送済みだ。
残りの時間はエネルギーを武器に使える。
だが・・・
エナジーボンベは底を尽き、槍とバイオレーザーのみで
戦わなくてはいけない。
バイオレーザーは強力だが、充填に時間がかかるので
連続では使用できないのだ。
ep.10 ---------- 薄れゆく意識の中で ----------
離れたところに居た騎士が、剣を振りかざし駆け寄ってくる。
「わが剣こそが・・・闇を断つ!」
同時に、コアの近くに居た剣士も剣を構える。
「これで決めるわ!」
ザンッッッーーーーーー
2人の剣が同時にコアに入る。
コアを失ったフェンは、ゆっくり前のめりに倒れこんだ。
起き上がろうとするが、もうその余力は無い。
草を掴みながら、上目に睨みつける。
「こんなところで死ぬなんて・・・うそだろ・・・」
空を見上げると、エニグマの速度がだんだん落ち、薄く変化していっている。
「俺は・・・見捨てられるのか・・・」
そのまま仰向けになり、やがて意識が遠のいていった。
「せめて、最後にもう1度ハイダや子供と会いたかっ・・・」
フェンが息絶えたのを感知すると、機材は突然黒い煙と赤い炎を出し始めた。(※7)
フェンは機材とともに燃えていく。
討伐されたときのために、イアル側に機材や情報などが渡らないようにするためだ。
やがて何もかも燃やし尽くされ、炎が消えた跡には今までと変わらない景色が
ただ広がっているだけであった。
- fin.
-------------------- あとがき --------------------
毎日レイドボス攻略をやっているうちに、残り時間が足りずレイドボスの帰還を許すこともあります。
帰還していく魔獣を眺めながら「この魔獣、どこへ帰るんだろう。魔獣にも友達とか家族とかいるのかな」という思いが浮かんで、エニグマの向こうの世界を想像して書いてみました。
みんな好きなヒーローやビーストの絵・作品がほとんどなので、こういうの作る奴が居てもいいかなとw
さも当然のように入る唐揚げネタにも(笑)、クスッとくる人がいたら幸いです。
ざっくり言うと、バフン魔獣がイアルでヒーロー達に倒されるまでのストーリー。
魔獣側から見たイアルの世界を描いてみました。
実際の魔獣出現アニメーションや出現座標などを参考にしています。
なかなか文を練るのは難しいですね。
細かいとこをすっとばして、超ショートストーリーになってしまいました。
ヒーローは敢えて名前を出していないので、セリフから当ててみてください。
魔獣はいかにも強そうなのではなく、訓練1ヶ月くらいっぽいバフン魔獣をチョイスしました。
レイドに挑めるくらいのレベルになってきて最初に挑むのがバフン魔獣Lv.1のような気がするので、読み手に身近なノーマルバフン魔獣が主人公です。
拙い文ではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
-------------------- 登場人物(?) --------------------
名前は漢字の中国語読みから取っています。(一部加工あり)
・主人公 フェン(フン) バフン魔獣
・妻 ハイダ(ウニ) ウニ魔獣 バフンウニとか居るしねw
・同期 ゴウ(イヌ) イヌ魔獣 人懐こいイメージの犬で
・指揮官 パシエ(カニ) カニ魔獣 残ったので使いましたw
-------------------- その他の名前など --------------------
・モショウ(魔獣)
・リンシャ(零下)
イアルの中国語表記は音写の伊亞爾(イアアル)ですが、せっかく4周年のお祝い
なので、音が似ていてゲーム業界で1,2を争うゲームになってほしいという願い
を込めた数字のイーアル(1,2)の意味にしました。
行く先がイアルなので、反対側の世界はゼロの逆側(マイナス)という名前です。
(ゼロが時空の壁?)
-------------------- 補足 --------------------
※1 ストラスのワルチャを見る人には分かるw
(チェリオは乾杯や別れのときに言う言葉らしい)
偶然にも、乾杯と(友との最後の飲み)で両方の意味になりました。
※2 リアル1時間がイアル時間1日に相当するので、レイドボスの残り時間30分を
イアル時間の半日(12時間)に換算しました。
出撃時間は、実際の出現イアル時間です。
※3 レイドボスは自ら街を襲いに行かないで1つの場所に留まっているので、
ヒーローたちが討伐しに来るのを仕方なく迎撃するという設定にしました。
※4 天が切り裂かれるときの声は"アップデート"と聞こえるので、アップデート
にしました。(結構思い込みで色々に聞こえるので、正解が分からない)
出現時の"天を裂くエニグマ"で聞こえる歌は、リンシャ魔術団の高等魔術詠唱
の声だという設定です。
※5 イアル側からはバフン魔獣に見えるだけという仮定にしました。
地面から吸っている動きはエネルギー収集、バイオレーザーは銃、爆発は
エナジーボンベ、テンタクルは槍という感じに置き換えました。
コアは身を守るための装置という設定です。
殻は身にまとっている防具のイメージです。
※6 魔獣のコア(4個っぽい)
※7 討伐すると魔獣だけじゃなく周辺も燃えてるように見えるので、こんな描写にしました。
コメント
1
Akira
ID: jkps2r8sbiub
長い(笑)∩^ω^∩
2
JUN猫@フレ募
ID: pyxbizyftvhv
おお、Akiraさんだ。チェリオ!w