“比翼の鳥”
二つの体に一対の翼をもち、
二つの体が揃わなければ飛べない伝説の鳥。
転じて、運命の相手、特に恋人を意味する。
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あら、本当ですね。
もうすぐお昼寝の時間だわ。
じゃあリコちゃん、
今日はお話にしましょうか?
すみません、こんなにお相手して頂いて。
…え、このまま一緒に聞きたい…?
いいですよ。あなたには
お世話になってますもの、ええ。
喜んで。
…こほん。
それでは、寝物語を一つ。
…あるところに、真っ赤な女の子がいました。
どうして真っ赤なのかというと、
女の子は血で汚れていたからです。
女の子は、剣士でした。
たくさん天使を切って、
その血をいっぱいにつけているので、
いつもいつも真っ赤でした。
真っ赤な女の子は、
ある日、天使の男の子に出会いました。
赤子に聞かせるには不穏な冒頭に、
内心ひやりとする。
しかしパダノアの表情に異常はなく、
穏やかに見えた。ただ、少し…
…悲しそうだと、思った。
▶︎話の続きを聞く。
もう少し様子を見る。
…不安げに始まった物語だったが、その後
だんだんと好転していくことになる。
天使の男の子と真っ赤な女の子は、なんと
深く想いを通わせる仲になったのだ。
パダノアは続けて語る。
真っ赤な女の子は、天使の男の子を好きに
なってから、もう天使を切るのはやめようと
思いました。
真っ赤な女の子は言います。
“ごめんなさい。あなた達が生きていること
忘れてしまっていたの。
もうこんなことしない。剣もいらない。 ”
真っ赤な女の子は、羽と血でくすんだ剣を
地面に叩きつけて、折ってみせました。
もう大丈夫。
二人はそっと身を寄せあいます。
しかし、天使を狙う人は、真っ赤な女の子
だけではありません。
二人は何度も追われて、逃げるうちに
とうとう離れ離れになってしまいました。
…でも、寂しいことはありません。
真っ赤な女の子は、天使の男の子に
宝物をもらったのです。
宝物をもらったのです。
宝物を大切に抱えて、女の子は歩きます。
…命尽きるまで、二人の宝物を守ると誓って。
__おしまい。
…パダノアが顔をあげた。
リコはもう眠っている。
黙って笑いかけると、
パダノアも微笑み返してくれた。
せっかく寝た子を起こさないためにも、
そろそろお暇しよう。
良い夢を。
とだけ小声でいって、その場を離れた。
ふと気付いて、扉の前で振り返る。
そうだ、今日、彼女に言うことが
あったんだった。
「…ねえ、パダノア__.....」
2
“連理の枝”
引き裂かれた恋人たちの墓に、
二本の樹が生えた。
その枝は絡みあい、一つの樹のごとく
連なった。
死してなお、共にあろうとするかのように。
比翼の鳥と並べて語られる、
恋物語の伝説である。
#
去っていく背中を見送りながら、
パダノアは少し呆然としていた。
「そういえば今日は、 そんな日だったのね…」
そのまま、思考は遠くに、
過去へととんでいく。
愛した人との思い出に。
…それなら。
ここから先は、私のために
寝物語をしましょう。
まだリコちゃんにも教えていない、
私の、もう一つの寝物語。
__私は。
あなたと肩を並べるには
あまりに穢れていた。
私の手は。
あなたと同じ翼を
幾十と手折り、
私の剣は。
あなたと同じ羽を
無数に纏い鈍っていた。
あなたと出会って、
それに気づいて、
私は剣を捨てたのだった。
あなたが話してくれた、
“比翼の鳥”の伝説。
「二人に一対の翼。
私たちみたいね、」と。
そう言って手を取り合った日々。
私の背に翼はなくて、
手は穢れていたけれど、
幸せな日々だった。
…ああ、でもそれは。
穢れた私の身には、
余る幸せだった。
小さな子供に聞かせる物語みたいな、
優しい、夢に過ぎなかった。
気づけばもうあなたはいなくて。
…絶望したわ。死ぬほど。
生きる意味を失くすほど。
それでも、私、生きてきたの。
あなたの残した、
比翼の翼を守るために。
私達の宝物、リコちゃんのためだけに。
…。
(…ふふ。だからすっかり、
自分の誕生日なんて忘れていましたわ。
ありがとうございます。
思い出させてくれて。
このキャラバンで、リコちゃんと、
私のことまで、守ってくださって、
…本当に、ありがとう。)
…おしまい、といって微睡む意識。
穏やかな心地で、パダノアは、
ようやく、“自分も”眠れる、と
心から思ったのだった。
遅ればせながら、パダノアママに捧げます。
お誕生日おめでとう。
パダノアが一対の翼をもつ人と結ばれ、彼が
死してなお、一対の翼(リコちゃん)が彼女に
残ったことから、
残ったことから、
「比翼・連理」を連想して書きました。
お誕生日台詞からいって、
パダノアは子供を守ることに精一杯で、
自分のことを忘れているみたいだったので、
盛大に祝ってあげたいです。
パダノアママはいいぞ!
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