四季(前科8犯)の旅日誌

公開

A Story ~ Birth ~


~ Prologue ~ 

これは、 
 
ある場所、ある時代の、 
 
小さな宝物の物語。 



 

~ 1. 理由 ~ 

私は常に戦っている。 
 
生きることは戦うことだ。 
 
この仕事に誇りを持っている。 
 
私が戦う理由。 
 
 
「この世界を守る」 
 
 
私が生きるこの世界。 
 
魔術に優れ、 
知性にあふれる、 
エルフの世界。 
 
この世界を害するモノを排除する。 
 
 
私はこの仕事を誇りに思っている。 
 
今日も、 
明日も、 
明後日も、 
 
穢れたモノを排除する。 
 
 


~ 2. 贖罪 ~ 

痩身の男が目の前にうずくまっている。 
 
右足と左腕の傷からは絶えず血が流れている。 
 
その目には怯えの色が浮かんでいる。 
 
「頼むっ!助けてくれっ!」 
「…」 
「何故こんなことをするんだっ!」 
「…もし、貴方の近くに伝染する病を持つ人がいたらどうしますか?」 
 
「や、や、病だとっ!?私が病だというのかっ!?」 
「汚染されたモノを除去していくことで、平和が保たれるのです。」 
 
「くっ、くそっ…同じ種族じゃないかっ!」 
「…同じ?…同じではありませんよ。穢れた貴方たちは。」 
 
「…死ぬわけには、死ぬわけにはいかないんだぁ!!」 
 
痩身の男は、右腕に持った刀で切りつけてくる。 
 
いつもこうだ。 
 
「汚染された」と言うと、必ず逆上して襲い掛かってくる。 
 
間違っているのは、汚染されたモノだというのに。 
 
… 
 
アルアリアに到着すると 
一旦宿舎に戻り、汚れた服を着替える。 
 
戦闘で汚れた服は、一応洗濯をする。 
 
大体は汚れが落ちず、そのまま捨ててしまう。 
 
でも、それがとてももったいないと思ってしまう。 
 
ほとんどの仲間は、躊躇なく服を捨てる。 
 
服は使い捨てだと笑っていた。 
 
私はそんな仲間達を、少し軽蔑している。 
 
 
着替えを終え、私は戦果の報告へ向かった。 
 
「隊長、ただいま戻りました。」 
 
「おお、ご苦労だったな。首尾は?」 
「問題なく排除してまいりました。」 
 
「そうか。さすがは「冥府の従者」だな。」 
「いえ。汚染された「翼もち」は、存在してはいけませんので。」 
 
「そうだな。この調子でいけば我が種族の純血も保たれよう。」 
「はい。」 
 
「戻ったばかりで申し訳ないんだが、1件、「翼持ち」の情報があってな。」 
「はい。」 
 
「今回も一人で行ってもらうが大丈夫か?」 
「はい。むしろ一人のほうが動きやすいので。」 
 
「そうか。では今回の任務について伝える。」 
「はい。」 
「かなり遠方になる。準備は怠らないように。」 
「はい。」 
 


 

~ 3. 太陽の破片 ~ 

アルアリアを出発して、 
ようやく目的地に着いたのは6日後だった。 
 
遠方と聞かされたが、 
こんな遠いところだとは思わなかった。 
 
3日目からは宿もなく、野宿だった。 
 
服も着替えていない。 
髪も心なしかベタベタしている。 
 
早く任務を終えて、宿舎に戻りたい。 
 
… 
 
「翼持ち」がいると聞かされた場所は、深い森の中だった。 
 
木々の隙間から射す日の光は、 
なんとも心地よい。 
 
木々の密度は高いのに、 
とても明るく感じられる。 
 
光がスフィラに反射して、 
森全体がうっすらと輝いているのだ。 
 
今まで「翼持ち」がいた場所とは、まったく違う雰囲気。 
 
ここで戦うのは間違っているのではと思ってしまう。 
 
こんなところに、本当に「汚染されたモノ」がいる? 
 
… 
 
目の前に現れたのは、一軒の小屋だった。 
 
外には井戸があり、薪が積んである。 
煙突からはもくもくと煙が上がっている。 
 
きっと昼食を用意しているのだろう。 
 
用意した昼食を食べることができないと考えると、少し悲しい気持ちになる。 
 
でも、そんな気持ちはいつも、 
「翼持ち」と会った時にさっぱりと消え去る。 
 
「翼持ち」はいつも、 
 
攻撃的で。 
 
反抗的で。 
 
だからこちらも遠慮なく任務を実行できる。 
 
気持ちを切り替え、小屋の扉を開く。 
 
 
「ルブルフィラムです!「翼持ち」が隠れているとの情報が…」 
 
 
目の前の光景に言葉を失った。 
 
目の前に、青年がいる。 
 
上半身は裸で、透き通る肌が露になっている。 
 
煙突から上がる煙は、湯を沸かす蒸気だったようだ。 
 
頭には布がかけられているが、 
濡れた髪からは雫が滴り落ちている。 
 
 
駆除しようとしたモノが、いきなり裸で現れたのだ。 
驚くのも無理はないと思う。 
 
しかし、驚いたのはそれが理由ではない。 
 
 
光が、 
 
光が飛び込んできたのだ。 
 
何かの魔術にかけられ、目が眩んだのかと思った。 
 
その光は、通ってきた森の輝きよりも、 
 
何倍も綺麗で、 
 
何倍も神秘的だった。 
 
 
そして、 
その光は、 
 
青年の背中に生えた、 
 
大きな、 
 
綺麗な、 
 
透き通った両翼から放たれていた。 
 
太陽の破片が、ここに落ちてきたのかと思った。 
 
それほどの光だった。 
 
彼が声をかけてくるまで、 
私はその太陽の破片をずっと見つめていた。 
 


 

~ 4 .存在 ~ 

「…僕を殺しにきたのですね?」 
「…え、え?」 
 
「ルブルフィラムのことは知っています。仲間が何人か殺されました。」 
「…あ、そうです。汚染されたモノを駆除するためで。」 
 
「そうですか。やっぱり逃げられないんですね。」 
 
そういって、彼は私に笑いかけた。 
 
殺されるとわかっているのに、 
 
殺そうとする私に笑いかけてきた。 
 
今まで、こんな「翼持ち」を見たことがなかった。 
 
 
「お、汚染を広げるわけにはいけないのです。異形のモノが存在すると」 
「私は、私達は汚染されていません。」 
 
「…皆、そういいます。汚染などしていないと。しかし」 
「いえ、違うんです。」 
 
「え?」 
 
「貴方が言う「翼持ち」の中には突然変異として翼が生えたものもいます。」 
 
「突然変異…」 
「しかし、私の翼は突然変異ではないのです。本当の翼なのです。」 
 
「本当の?…いや、「翼持ち」はイアルに災いをもたらすモノに汚染された存在で」 
「それが違うのです。」 
 
「…違う…?」 
 
「エルフの祖先は、ハイエルフです。ハイエルフは皆、翼を持っています。 
ハイエルフは、エニグマにより住む場所を奪われ、イアルに降りてきたのです。 
地上にいるのに翼はいらない。だから翼がないものが生まれるようになりました。 
遂には翼を持つもののほうが少なくなった。 
翼を持たないことが普通になり、エルフと名乗るようになった。」 
 
「…私たちが、「翼持ち」が退化した存在だというのですか?」 
「逆です。進化です。環境に適合しようとした結果なんです。」 
 
「…なぜ「翼持ち」が突然変異として生まれるのです?」 
「仕組みはわかりません。しかし、翼のない両親から「翼持ち」が生まれることもあります。 
エルフの先祖は皆、「翼持ち」なのです。突然翼を持つものが生まれてもおかしくありません。」 
 
「あ、あ、貴方は「翼持ち」も私達も同じエルフであるというのですか?」 
「ええ。そうです。優劣などないのです。」 
 
「でも、でも、実際に「翼持ち」が出現すると災いが起こるという記録も」 
 
「…もしかしたら、それも逆なのかもしれません。」 
 
「そ、それはどういう意味ですか?」 
「災いが起こりそうになった時、災いからイアルを守る為に産まれると考えられませんか?」 
 
「あっ…そ、そんな…」 
 


 

~ 5. ふたつの心 ~ 

どうやら私は倒れてしまったらしい。 
 
気が付くと小屋のベッドに寝かされていた。 
 
ゆっくりと起き上がる。 
 
部屋の中は蝋燭の灯りでゆらゆらと照らされていた。 
 
まだ混乱している。 
 
今までたくさんの「翼持ち」を駆除してきた。 
 
それが、仲間を殺していたことと同じことだと言われたのだ。 
 
私は、何人の罪なき人を、仲間を殺してきた? 
 
そう思った瞬間、身体が震えだした。 
 
思考を、身体が拒絶している。 
 
その時、ベッドに座った私の肩に、 
やわらかい毛布が掛けられた。 
 
やわらかい毛布に包まれただけなのに、 
何故か震えは収まった。 
 
 
「大丈夫ですか?」 
「…」 
 
「混乱されるのも無理はありません。信じられないかも知れませんが」 
「い、いえ。」 
 
「えっ? えーと…信じていただけると?」 
「 はい。信じます。」 
 
「…えーと。逆にちょっとびっくりしているんですが」 
「はい。私も素直に信じている事にびっくりしています。」 
 
「嘘はついていないんですが、何故信じてもらえたのでしょうか?」 
「 貴方が嘘をついているとは思えないんです。」 
 
「そ、そうですか。殺されると思っていたので 」 
「私もです。でも、信じていたことが真実とは限らないって思ったんです。」 
 
「…私はもう殺されませんか?」 
「えぇ。あっ、いや、少なくとも私には。」 
 
彼は口元を手で隠した。目は笑っている。 
私は何か可笑しいことを言ったのだろうか。 
 
「…あの、「翼持ち」についてもう少し話を聞きたいんです。」 
「そうですか。私の知ることであれば。でも、知れば知るほど、貴方は…」 
 
「…はい。壊れてしまうかもしれません…でも、知らなければいけないんです!」 
「…わかりました。今日はもう遅いです。明日、お話しましょう。」 
「はい。ありがとうございます。あっ、でもすぐに知りたいことが…」 
「なんです?」 
 
「あの…お名前は?」 
 
彼は、また口元を手で隠す。 
 
そして、笑ったまま、こう言った。 
 
「フェリクスといいます。」 
 


 

~ 6. MARRIAGE ~ 

それから、私はフェリクスと話をした。 
 
「翼持ち」として隠れて生活していること、 
 
両親がいないこと、 
 
仲間のこと。 
 
仲間とはたまに会って話をするという。 
 
どこに誰がいて、 
どんな生活をしているのか教えてくれた。 
 
ルブルフィラムに所属している私に 
居場所を教えてもいいのかと聞いたら、 
 
「君はきっと、少し、他の人とは違うと思うんだ。」 
と言われた。 
 
何故か、嬉しかった。 
 
たくさんの話をして、 
私の考えは変わった。 
 
「翼持ち」は汚染などされていない。 
 
むしろ、純血に近い存在なのかもしれないと。 
 
 
しかし、 
 
それよりも、 
 
フェリクスの、 
 
口元を隠して笑う仕草に、 
 
綺麗な、透き通った髪に、 
 
私を受け入れてくれる心に、 
 
惹かれていった。 
 
 
フェリクスと過ごして1週間が過ぎた。 
 
私は、決意した。 
 
「フェリクス…あのね、私…」 
「ん?どうしたの?」 
 
「アルアリアに戻らなければならないの。」 
「…そうか。お別れしなきゃいけないんだね。」 
 
「…私、ルブルフィラムを辞めることにしたの。」 
「えっ?」 
 
「今までしてきたことが、間違っていた事だって気付いたの。」 
「…そっか。いや、少しでも僕の気持ちが伝わったなら嬉しいけど…辞めてどうするの?」 
 
「…わからない。でも、このままあそこにいることはできないもの…」 
 
「…あのさ、もしよかったら…戻ってこないかい?」 
 
「えっ?」 
 
「もうすぐクリスマスだろう?美味しいチキンが焼けるんだ。ローズマリーの香りのするチキン。」 
「…クリスマス…」 
 
「それでね…チキンを食べた後は…ここで一緒に暮らそう。どうかな…」 
 
「…でも、私は今まで」 
「ここは静かでいいところだけど、君がいたら、なんていうか…落ち着くんだ。」 
 
気付くと私は、 
フェリクスの胸の中に飛び込んでいた。 
 
こんなに嬉しくて、申し訳なくて、悲しくて、 
 
心が温かったことなんてなかった。 
 
とめどなく流れる涙を、フェリクスはそっと拭いてくれた。 
 
いつもと同じ、あの笑顔で。 
 


 

~ 6. 傷つけた人々へ ~ 

アルアリアに戻った私は、 
宿舎に戻らず、隊長のところへ向かった。 
 
「隊長、ただいま戻りました。」 
 
「おお、待っていたぞ。長くかかったな。」 
「はい…少々時間がかかりまして…」 
 
「首尾は?駆除は成功したか?」 
「………はい。」 
 
「そうか!さすがだな。」 
「………ありがとうございます。」 
 
「長旅になって疲れたと思う。しばらく休むと」 
 
「隊長、私、ルブルフィラムを辞めます。」 
 
「そうか!さすがの「冥府の従者」もかなり疲れたよう、今なんと?」 
 
「私、ルブルフィラムを辞めます。」 
「は!?え!?な、な、何で?」 
 
「私、結婚するんです。」 
 
「え、いや、ちょっと、いきなりでよく」 
 
「除隊の規約は知っています。ルブルフィラムのことは何一つ言いません。」 
「いや、そうじゃなくて、え」 
 
「手続きの仕方は知っているので。では失礼します」 
「それはそうだけど、手続きとかじゃなくて、ちょ、ちょっと待って!ノルマとかが」 
 
 
私は急いで部屋を出た。 
 
隊長の声はもう聞こえていなかった。 
 
ここにいたら私はおかしくなってしまう。 
 
今までの過ちや罪悪感に苛まれ、 
死んでしまうかもしれない。 
 
私は宿舎に戻り、急いで荷物をまとめる。 
 
荷物は最低限にとどめた。 
 
新しい生活が始まるんだ。 
 
 
宿舎を出ると、痩身の男性が立っていた。 
 
「話は聞いたぞ、ルブルフィラムは大混乱だ。」 
「将軍!…申し訳ありません。」 
 
「結婚すると聞いたが、本当か?」 
「はい。私、結婚するんです。」 
 
「そうか…よかったな。」 
「えっ?あっ、ありがとうございます。」 
 
「どうした?なぜ混乱している?」 
「てっきり止められるのかと…」 
 
「…幸せの価値観とは、人それぞれだ。少しうらやましい。」 
「は、はぁ。」 
 
「除隊の手続きはこちらで行っておく…幸せにな。」 
「あっ、ありがとうございます。」 
 
後ずさるようにその場を去ると、 
 
今言われた言葉を思い出して 
少し気持ちが楽になった。 
 
そうだ。 
 
祝福してくれる人もいるんだ。 
 
これから、私は、少しずつ、 
 
今までの罪を、 
 
今までの過ちを、 
 
償っていくんだ。 
 
フェリクスに支えられながら。 
 


 

~ 7. 誕生 ~ 

ルブルフィラムでの戦いで、暴力には慣れていた。 
 
でも、この痛みはなんなの? 
 
どうすることもできない、 
 
耐え難い、 
 
絶えることのない痛み。 
 
正直、ここまで辛いものだとは思わなかった。 
 
フェリクスの仲間から、 
 
「出産はこの世で一番痛いことよ。でも乗り越えた先に幸せが待っているわ。」 
 
と言われた。 
 
乗り越えられる気がしない。 
 
フェリクスは小屋の外にいる。 
 
大声で 
「頑張れぇ!頑張れぇ!」 
と応援してくれているようだ。 
 
 
何を頑張れというの? 
 
 
その時、出産を手伝ってくれている仲間が言った。 
 
「ほら!もう少し!あと1回!」 
 
何を? 
 
何が1回なの!? 
 
どうしたらいいの!? 
 
息は絶え絶えで、 
力を入れることもできない。 
 
でも、 
 
でも、 
 
私の中から、一所懸命に外へ出ようとしている。 
 
生きているんだ。 
 
 
私は、この子に、会いたいんだ。 
 
 
そう思った瞬間、痛みがふっと和らいだ。 
 
小屋の中に、大きな泣き声が響いた。 
 
その声は、 
 
可愛く、 
 
そして、 
 
力強かった。 
 
「よく頑張ったね!ほら、女の子だよ!」 
 
仲間が私の胸に何かを乗せてきた。 
 
目をつぶっていた私は、うっすらと目をあけた。 
 
 
そこには、 
天使がいた。 
 
 
可愛いだけではない。 
 
小さな、 
 
そしてとても綺麗な翼を持った、 
 
私の天使がいた。 
 
 
扉が大きな音をたてて開かれると、 
フェリクスが前のめりに小屋に入ってきた。 
 
「産まれた!?産まれた!?産まれたの!?」 
 
天使を取り上げてくれた仲間が 
フェリクスを叩いて部屋から追い出す。 
 
「まったく!男ってのはどうしてこうも情けないのか…」 
 
その言葉を聞いて、 
 
私は、この天使を守らなきゃいけないんだと、 
強く、強く誓った。 
 
「ねぇ、名前は決めてあるの?」 
「はい。フェリクスと考えたんです。」 
「へぇ、なんて名前なの?」 
 
「この子は、リコです。」 
「リコちゃんね!可愛い名前だね!」 
 
私のリコちゃん。 
 
フェリクスと同じ翼を持つ、私の天使。 
 
この子を守ることが 
私の新しい任務なんだ。 
 
でも、一人じゃない。 
 
フェリクスと一緒に。 
 


 

~ 8. Forget Me Not ~ 

いつものようにお昼ご飯を用意していた時、 
小屋の外から大きな声が聞こえた。 
 
フェリクスはあわてた様子で小屋の外に出て行った。 
 
リコちゃんが起きないかとヒヤヒヤしたけど、 
天使のような寝顔ですやすや眠っている。 
 
私は火元から離れることができず、 
外の様子もわからなかった。 
 
数分後、フェリクスが小屋に戻ってきた。 
様子がおかしい。 
 
「仲間の集落が見つかったみたいなんだ。」 
「えっ?でも今まで見つからなかったのに…」 
 
「たまに森に迷う旅人がいるんだ。そこから伝わったみたいで。」 
「そんな…どうするの?」 
 
「いかなきゃいけないんだ、どうしても」 
「えっ?集落に?..でも 危険でしょ?」 
 
「今まで助けられてきたんだ。今度は助けないと。」 
「そうだけど…怪我でもしたら…」 
 
「大丈夫だよ。まだ戦闘にはなってないんだ。みんなを逃がしたら戻ってくるよ。」 
 
「…私が行ったほうが…」 
「君はリコを守らないと。」 
「そうだけど…なんだか嫌な予感がするの…」 
 
「大丈夫だよ。明日の昼ごはんまでには戻る。」 
「…」 
 
「お昼はチキンがいいな。ローズマリーの香りがするチキン。」 
「…わかった。もうすぐクリスマスだもんね…気をつけてね…」 
 
… 
 
こんな日に限って、リコちゃんはずっと機嫌が悪かった。 
 
何をしても泣いていた。 
少し熱もあるようだ。 
 
1人でおろおろしている。 
 
フェリクスがいないだけでこんなにも不安になるなんて。 
 
私がしっかりしなきゃ。 
 
今、リコちゃんを守ることができるのは、私だけなんだから。 
 
 


~ 10. きっと忘れない ~ 

フェリクスが戦死したということは、 
次の日の夜、逃げてきた仲間から教えられた。 
 
仲間を逃がすため、囮として戦ったという。 
 
知らせを聞いたとき、涙は出なかった。 
 
これからどうすればいいか。 
 
どうしたらリコちゃんを守れるのか。 
 
そればかり考えていた。 
 
この小屋もすぐにばれるかもしれないと言われ、 
荷物を纏めてすぐに立ち去った。 
 
仲間と一緒にいると危険かもしれないと思い、 
2人で逃げるといって分かれた。 
 
そして、 
 
誰もいない、崩れかけた小屋を見つけ、 
 
藁を慣らして、 
 
毛布にくるんだリコちゃんを寝かしつけた後、 
 
声を出さず、 
 
泣いた。 
 
涙は止まらなかった。 
 
フェリクスと過ごした小屋。 
 
リコちゃんと過ごした森。 
 
口元を手で隠して笑う、フェリクスの癖。 
 
全てが、 
 
全てがなくなってしまった。 
 
私のせいだ。 
 
私が、私が、 
 
私が仲間達を殺してきたから。 
 
過ちが。 
 
こんな形になって襲い掛かってきたんだ。 
 
どうして、どうして、どうして。 
 
これからどうすればいいの。 
 
藁に手を付き、声もなく泣いていると、 
私の手に、暖かな何かが触れた。 
 
暖かい。 
 
やわらかい。 
 
涙で前がよく見えない。 
 
でも、 
それが、リコちゃんの手だとわかる。 
 
見えなくても。 
 
涙を拭いて、リコちゃんを見る。 
 
リコちゃんは、こちらを見て笑っている。 
 
口元に浮かぶ笑みは、フェリクスにそっくりだった。 
 
まるで、フェリクスがそこにいるかのようだった。 
 
そうだ。 
 
私には、 
守らなきゃいけない、大切な宝物がある。 
 
フェリクスが残してくれた、 
 
とても可愛い、小さな宝物が。 
 
母親は、強いんだ。 
 
私は、この子を守るために、生きるんだ。 
 
1人で、この子を守るんだ。 
 


 

~ 11. 果てしない旅~ 

傭兵しかできないと思った。 
 
なのに、 
仕事がない。 
 
依頼は来るけど 
条件を出したら断られる。 
 
「リコちゃんも一緒でいいですか?」 
 
この言葉を出した途端、依頼主は去っていく。 
 
リコちゃんを一時でも手放すことはできない。 
 
私1人で守るんだ。 
 
そう思っていた。 
 
でも、 
ひょんなことから、新しい仲間ができた。 
 
少し変わっていて、 
 
でもまっすぐな人が沢山いる。 
 
種族も関係ない。 
 
いつも賑やか。 
 
私は、フェリクスと2人でリコちゃんを守るんだと思っていた。 
 
でも、それが1人で守らなければならなくなった。 
 
そして、今、大勢の仲間が、リコちゃんを大事に思ってくれている。 
 
フェリクス、 
 
少し変わったところだけど、 
 
リコちゃんと私はみんなで生きていくことにしたよ。 
 
だから心配しないでね。 
 
私1人だと不安だったんでしょ? 
 
でも大丈夫だよ。 
 
お医者さんもいるし、 
 
コックさんもいるし、 
 
何なら王様もいる。 
 
こんなにも変わった、 
 
いろいろな人がいる
 
この場所で、 
 
私とリコちゃんは楽しく生きていくからね。 
 



~ Epilogue ~ 

「はぁ!?本気でいってんの!?」 
「本気も本気だ!何がクリスマスだよ!何が楽しいかわかんねぇ!」 


「…馬鹿…」 
「はぁ!?てめぇ!もっかい言ってみろよ!」 


「何度でも言うし。ボグスの馬鹿!」 
「どこが馬鹿なんだよ!お前なんかブスじゃねぇか!」 


「あたしのどこがブスだよ!意味わかんないし!」 
「鏡見てみろよ!ブスはブスなんだよ!」 



「まじ意味わかんないし!ボグスなんか死んじゃえ!」 
「痛てっ!何投げやがった!?あっ?これ俺が欲しかった…ちょっ、ちょっと!待てって!」 
 
2人の喧嘩はいつもだけど、 
大音量の喧嘩を聞いてもリコちゃんはニコニコしている。 
 
こんな賑やかなクリスマスもいいかもしれない。 
 
でも、 
 
私は不安だ。 
 
 
リコちゃんもあんなふうになるのかしら… 
 
 
to be continued. 
 __________________________________ 
T.P.


四季(前科8犯)

コメント

1

老舗人

P@M

ID: hz6dztkhbiz9

ちょっ…
目と鼻から変な汁が出て止まらないのだけど、この日誌読んだら呪われる系のアレですのん?!(;´Д⊂)

とりあえず5人位に回して、ママを☆5にしたら呪い解けるかしらん… _:(´ཀ`」 ∠):

2

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 1
P@Mさん、それはね、風邪ですm(*_ _)m
でも私も自分で妄想してて文章に起こしたら途中で泣きそうになったことは私だけの秘密(・×・)

3

ミント。

ID: 49h9kuex56dv

これ読んで思った…家族大事にしよう…(´;ω;`)

4

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 3
ミントさーん、
家族、大事(´;ω;`)
ボグス、馬鹿(´;ω;`)

5

シュナイダー.P

ID: d5wtqiwe4bav

あ、リコちゃんの話だってすぐに気づいたじぇ(ノ´∀`*)

6

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 5
しゅなっち、
どうしてもパダノアとフェリクスの話を書きたくてさ。
したら悲しくなった。゚(゚´Д`゚)゚。

7

いわのふ

ID: icvv7dirhuni

今回の主役はわかりやすかった!
フェリックスってあれですよね、猫ですよね

8

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 7
今回は主役隠しじゃないもん!
なみだなみだの物語だもん!

そうそう、主役は黒猫フェリックス。
ナップサックのやーつ。

9

1000いいね達成

かにみそたん

ID: ijrxgwhdcfv3

ちょっと早めに昼休み入ったから早速きたら
泣かされたーー(T_T)

昼からの仕事どーしてくれんのさ






( *´艸`)ww

10

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 9
かにたん、
ぐへへ。やってやったぜ。

11

眠兎

ID: 5ynzyq7zm85e

今更ながらこのシリーズのドラマCDをサントラの特典でつけましょ! 否!こっちをメインにしてサントラをおまけにしましょ!
ただの日誌で終わらせるのは勿体ないレベルです(´;ω;`)ナミダガ,.,

12

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 11
眠兎さん、褒めてくれてありがとうm(*_ _)m
褒めて伸びるタイプです(`・ω・´)キリッ

運営さんから連絡こないかなー
執筆料5億でいーのになー

13

いくら

ID: s2g6shshb8wx

ボグスのばか!
素敵すぎる。
最初ギャルの方の話かな?って思っちゃったけど、リコちゃん!!
休憩中には向かない涙涙のお話(´つω・。)

14

イアルの冒険者

Papico

ID: tsf47yzqh4j9

あぶない!!(; ・`д・´) おっちゃん職場で泣くとこだった!!
メガネしててよかった、それでもあれだったから
目が疲れたふりして、目薬さした。
だから、泣いてない( ´∀` )
我ながら名演技だったと思う。
わし....やくしゃになるよ。ありがとう☆

15

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 13
いくらさーん
プリアとボグスの話も書きたいっ!

16

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 14
ぱぴこさん、
泣かないで。゚(゚´Д`゚)゚。
悲しいパダノア…だけど明るく振る舞う…悲しい…

17

イアルの冒険者

玲瓏の常夜ギンコ

ID: mpz99vwbkac4

おぉ…マジっすか。
おぉ…マジっすか!
泣かすよねー!(๑•̀ㅂ•́)و✧
しかもパダノア育てたくなってキタ━─━─━っ!((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆
もう、じっとしておれません!笑৲( ˃੭̴˂)৴

18

旅日誌マスター

ashley

ID: 3daxaiz3trvt

新しい方からコメしていってたのでw
最後に凄い作品残ってました♪

良い作品でした(๑>ᴗ<๑)
レーナさんが最後でなくてw

19

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 17
ぎんこさーん
泣ける話よ…妄想全開だけどね…

20

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 18
マスター(*´ω`*)
レーナが本年の締めですよ?

この発言は削除されました(2021/11/16 02:00) 21

22

四季(前科8犯)

ID: fkdfpjcdrzxt

>> 21
miさん
コメントありがとございますm(*_ _)m
このシリーズは読んでくれるだけでも嬉しいのです、
妄想ですけどね…(*ノдノ)テレッ