リンデンの旅日誌

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繋ぎとめられた命


: 旅日誌 : 私的記録【アリアロ】

先日、ノヴァルさんがキャラバンに迎え入れられました。
全身が継ぎ接ぎだらけの痛々しいお姿に、最初は各々複雑に思ったことでしょう。
しかしながら、ノヴァルさんご自身のお人柄により、すぐに仲間たちと馴染んだようです。
特に、エメトロとは記憶のない者同士、まるで兄弟のように打ち解けている様子が微笑ましく思います。
談話室のそばを通りかかった時、おふたりの会話が聞こえてきたので、悪いと思いつつも立ち聞きしてしまいました。
職業病ですね。

「よう、ノヴァル。どこかに行ってきたのか?」
「ノヴァルが出かけてきたこと、よくわかったな。エメトロはすごいな」
椅子に腰かけたエメトロは、楽しそうに笑いました。
「お前が外で何かを見てくると、必ず幸せそうな顔して戻ってくるからな」
「そうか。そう見えるのか。今日はハワース大森林や、イエ島に連れて行ってもらった。洞窟にも入ったぞ。宝箱を開けて、金塊を見つけたりした。面白かったぞ。きれいなところ、たくさん見た」
「楽しめたようでなによりだ。……どうした、そんな顔して」
ノヴァルさんは幸せなことを体験したあとは、少し時間が経つと表情が曇ってしまいます。
この幸せはいつまで続くのだろうかと、考えてしまうようですね。
「もし、突然記憶が蘇ったりしたら………」
「おいおい、前も話したことがあるが、以前の記憶がどうのと考えるのは、お前の場合は馬鹿らしいと思うぞ」
それは私も同感です。
記憶が戻ったとして、それは果たしてオークとして生きていた〝ノヴァル〟の記憶なのでしょうか。
「ネクロマンシーによって繋ぎとめられたその魂は、いったい誰のものだったのでしょうか」
私も議論に参加したくなり、つい擬態を解いて談話室の中に踏み込んでしまいました。
「アリアロか。聞いてたのか」
「申し訳ございません」
「まあいい。俺もそう考えるぞ、ノヴァル。思い出すとしたら、その魂の前世の記憶だ。そうだとしたら、余計にあり得んがな」
「そうなのか?」
「そうだとも。前世の記憶なんて、誰も覚えちゃいないさ。生まれる前、自分が誰だったかなんて覚えてない」
エメトロにそう言われて、ノヴァルさんは悩ましげに窓の外を見つめました。
「魂は巡るのか……?」
「ガレガの言う通りなら、そうだな。神になるために、魂は肉体という容れ物を換えながら修行を続け、因果の芽を刈っていくんだ」
おそらくは、彷徨っていた誰かの魂がネクロマンサーに捕らえられ、継ぎ合わされた肉体に繋ぎとめられたのかもしれません。
または、その魂は本当にノヴァルのものであり、新しい肉体に入ると記憶が封じられる仕組みになっているのだとすれば………。
「………」
その考えは、さすがに口には出せませんでした。
そんな話を続けては、ノヴァルさんに余計な混乱と不安を招くことになりかねません。
「神に、なるのか」
「元は神の子だから、って誰かが言っていたな。ーーなあ、おい、こういう話は、スラヴェイアの近くでするんじゃないぞ」
「なんでだ?」
「彼女は彼女で、信仰する神が違うんだ。長い説教をくらう羽目になるぞ」
「わかった。ノヴァルは気をつける。そういう話はしないようにする」
「………」
なんと純粋な人でしょうか。
悪い者の手に落ちる前に、このキャラバンに迎えられたのは良い偶然でした。
ガレガ殿なら、偶然は必然であると反論されるでしょうか。
これも、子を思う神の導きなのでしょうか。
「どうした、アリアロ。急に静かになったな」
「………私は元々、口数の多いほうではありません」
「議論しに来たんじゃなかったのか」
「色々と考えてしまいまして」
「アリアロも、記憶のことで悩んでいるのか?」
ノヴァルさんが心配そうな顔で言いました。
「いえ、神の御業についてです」
「よくわからないが、悩みがあったら、ノヴァルが相談に乗るぞ」
「ありがとうございます。その時はお言葉に甘えさせて頂きますよ」
翳りのない純粋な彼の笑顔を見ると、少し胸の内が痛みます。
ノヴァルさんご自身で危惧されている通り、造られた命は短いと聞いたことがあります。
エメトロに言わせれば、それも馬鹿げた考えなのかもしれません。
生まれてきた魂が次の世でなすべき修行がどのようなものであれ、それが短い期間なのか、それとも長い期間になるのかは、その魂次第。
生まれてからそのことについて心配するのは愚かなこと。
ガレガ殿ならそう仰るでしょう。

魂の輪廻について、彼を見ると色々と考えさせられます。
この記録は宗教的な要素も含むため、私的な記録として鍵付きのノートに綴っておくこととします。
スラヴェイアさんの目には触れないように、保管には注意を払わなければなりませんね。


リンデン

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