真田幸村「そうか。そなたも異世界より、このいあるの地に顕現した身であったか。そのような幼い身空で、数奇なことであるな……」
ユウリ「私の場合はひどく事情が特殊と言いますか……いえ、よく考えたら幸村さんの方が特殊かもしれませんけれども。それにしても、幼いは言い過ぎですよ」
・
・
・
「うん? ああ、許せ。慣れぬ身だ、りざーどまんの齢は見た目からは計りがたい。妙に落ち着きがあるとは思っていたが……して、そなたは幾つになる」
「一応、私が、ユウリという自我を持ってから、17年になります」
「17!? ……驚いた。見た目だけならその半分と言われても頷けようにな」
「私は本当に特殊なケースですので……。ちなみに幸村さんは、お幾つなのですか?」
「当年とって44になる」
「44歳!!??」
「赤備の鎧に朱鞘の槍、夏の陣という技。何より拙者は生涯ほとんどを『幸村』ではなく『信繁』と名乗っていた。間違いあるまい」
「……それこそ半分と言われたほうが自然ですよ。ずいぶんと若々しく見えますが、幸村さんの世界は、イアルとは時間の流れが違うのでしょうか」
「そこまでは判じかねるが、若く見えるというのはもとよりやもしれぬ。拙者も真田の子倅と侮られ、戦の前の軍議では意見を軽んじられることも多かった。彼の世は老熟を尊ぶ文化でな」
「へぇ……異世界のお話は興味深いです。そうだ、一つお聞きしてみたいことがあったのでした。幸村さんの世界には水の精霊はいますか?」
「水の……せいれい? せいれいとは一体いかなるものか」
「ええと、精霊というのは濃縮して実体化したスフィラ……スフィラというのは魔術の元となる力のことですが……そういえば幸村さんの世界には魔術が存在しないのでしたか」
「そなたらの使うようなわかりやすいものではないが、拙者らも戦の前には神仏に加護と天運を願い神秘の力を借りることは恒例であったぞ。首尾よく勝てば寄進奉納を行って助力に報い、負ければ社寺は打ち壊す」
「……なんだかそれは、全く違う有様ではないでしょうか……?」
「どうも言葉による説明はかえって誤解を生む気がするな。精霊についてもっと具体的に教えてくれ」
「私はさておき、キャラバンにも乗っていますよ。ウンディーネ、シヴァ、シルフ達です。ユキダマもそうなのかな」
「ああ、なるほど。我々の世にいう、物の怪のことか。水の怪だな」
「モノノケ? 水のカイ? そういう名前で呼ばれているのですか」
「うむ。それなら色々いるぞ。筆頭は河童であるな。子どもと相撲をとったり、人を水辺に引き寄せて溺れさせたり、薬を作ったり、馬の尻を撫でたりするという」
「えぇ……不思議な習性ですね」
「剣を飛ばしたり人を凍らせたりするのはどういう習いなのだ」
「それを言われると……。ほ、他にはどんなモノノケが?」
「海に出れば海坊主というのがいるぞ。目を合わせるとたちまち船を沈めてしまうそうな。相模では川天狗というのが川辺で火を灯すとか。小田原北条攻めの折に聞いた話だ」
「う~ん、興味深いお話ばかりです……。ん、いま小田原とおっしゃいましたか? 最近聞いたことがあるような」
・
・
・
「まさかこの期に及んで日の本の湯に入れるとは思わなかったぞ」
「まさかこんなところが幸村さんのルーツに繋がっているとは思いませんでした」
「話によると、拙者の元居た世より550年も後の世という。気の遠くなるような話ではあるが、もはや驚きすぎて驚けぬ。しかし部下も喜んでいた。感謝するぞ、ユウリ殿」
「いえ、たまたまです。それより、またモノノケのお話をしてください。異世界にいる私の眷属の話、もっと聴いてみたいです」
「えっ」
「えっ」
コメント